空爆すべきか、しないべきか

The Economist の記事を訳出しました。
America and Syria: To bomb, or not to bomb?
原文はこちらから読めます。


アメリカとシリア
空爆すべきか、しないべきか

大統領が行動することの正当性を訴える

2013年9月7日

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 イラクでの「馬鹿げた戦争」に反対したことで、バラク・オバマは、大統領当選への道が開かれ、何もせぬうちにノーベル平和賞を手に入れた。オバマ大統領は、いま、戦争で陣頭指揮をとることの孤独を学んでいる。彼は議会からの正式な支持があろうが、あるいは(彼がほのめかしているように)なかったとしても、シリアでの軍事行動へと、気乗りしないアメリカを立ち向かわせようとしている。

 8月31日に、オバマ氏は、1000人以上の死者を出した神経系の化学兵器による攻撃に対する報復として、バッシャール・アサド政権への攻撃について議会の承認を求めると公表して人々を驚かせ、ワシントンで議論を沸騰させた。議会の支持が得られるかどうかは定かではなく、また、世論調査はアメリカ人がシリアへの空爆に反対していることを示しているが(表参照)、オバマ氏は、将来の化学兵器の使用を未然に防ぐために行動を起こすことが必要だと断言した。

オバマのジレンマ

 彼は、サンクトペテルブルクで開催されるG20サミットに向かう途上、スウェーデンでの短い滞在中に、「我々は行動しなくてはならないと思う」と述べた。決然たる意思と非難がアサド氏の化学兵器使用に対する唯一の返答であるならば、「罰さない」ことは、国際的な基準を無視しても構わないというシグナルを送ることになる、と彼は言う。。

 それは皮肉に満ちた一週間だった。オバマ氏は、これまで、シリアに軍事介入することについて乗り気でなく、アメリカの介入は良い結果より悪い結果をもたらしかねないと主張してきた。その彼が、反対勢力に、中東で軍事行動を起こすか、あるいは、アサド政権を罰さずにおくかという決定について責任を共有させるため、議会に赴いた。

 しかし、党派を超えた合意を形成する代わりに、オバマ氏は、両党内の深い亀裂を衆目の前に曝すことになった。議会の支援を求める中で、常に抜け目ない最高指揮官たる彼は、自分が、他国の道徳問題に首を突っ込んで包括的な議論をしていることを、また、彼が事前に考えていた以上に過酷な軍事行動になることを自覚した。

 彼が所属する民主党は、左派のハト派とオバマ支持派に分断されている。対する共和党は、タカ派と不干渉主義派、そして、この「社会主義」の大統領を信用しない、相当数の保守陣営に分断されている。

 オバマ氏は、2012年にアサド氏に、化学兵器の使用は「超えてはならない一線」を超えることになると公に警告したことがあり、そのことについての自分自身の信用問題を気にかけているわけではないと弁解しつつも、議論を広めようと奮闘した。このような兵器に対する国際協定を可決した時点で、全世界は超えてはならない一線を引き、アメリカ議会もまた、同じ国際協定に調印した際に一線を引いたのだと、今週、彼は述べた。

 しかし、この議論が、ルワンダでの大虐殺からシリアでの新たな殺戮に至るある種の犯罪行為に対して世界中の人々が一致団結して立ち向かうべきだ、という、従来とは趣を変えた主張にオバマ氏を導くことになった。彼は、ストックホルムで、アサド氏への外交的圧力はすでに試みられた、と述べ、「為さねばならない道徳的行為は、見て見ぬふりをすることではない」と言った。「私は人々に問わなくてはならない。もしもあなたが無辜の民が殺されることに憤慨しているのであれば、あなたは、それに対して何を為すのか、と。」

 ワシントンを去るまでの間に、オバマ氏は、下院議長であるジョン・ベイナーを含む共和党のリーダーたちと議会の民主党議員たちから、何らかの形の介入を行うことへの公の支持を得た。彼はまた、長年にわたり議会に強い影響力を持つ親イスラエルの活動団体、AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)からの支持を取り付けた。

 9月4日には、上院外交委員会が、90日間という期限付きの、シリアでの限定的な軍事行動の徴兵許可を承認した。それは、地上軍を「軍事作戦」に使うことを禁じているが、その一方で、特別軍による緊急時の対応のための例外も設けられている。上院と下院でのさらなる投票は、議会が9月9日に正式に再開された後に行われる。

 しかし、人民主義の強い風潮が政局を支配するいま、党派がリーダーシップを発揮するという考え方は弱まってきている。少なくとも、投票者の怒りが、揺らいでいる議員に、反対票を投ずるもっともな口実を与えている。共和党の分裂には目を引くものがあった。ジョン・マケイン上院議員のような外交政策の強硬派は、シリアの反乱軍へのさらなる支援と、より大規模な攻撃が必要だとまくし立てた。一方、人民主義右派では、ケンタッキー州の上院議員ランド・ポールと、テキサス州のテッド・クルーズが、シリアの財宝のためにアメリカ人の血を無駄に流すのか、と競うように非難の声を上げた。ポール氏は、シリア攻撃はアメリカに何の国際的利益ももたらさない、と言う。クルーズ氏は、アメリカにとって「この戦争は何の意味もない」と言う。彼は、シリアの反乱軍がイスラム教徒で占められている恐れについて言及しつつ、アメリカの軍隊が「アルカイダの空軍」の役割を演じてはならないと、気炎を上げた。

 議会の承認を得るため、オバマ氏とその陣営は、忠実なる民主党議員だけでなく、マケインのような外交的タカ派に対しても呼びかけていかなくてはならないだろう。こうしたことが、当初は浅はかだった軍事計画についての議論を、広め、深めることに、議員たちを導いた。

 たった数日前には、ホワイト・ハウスの高官たちは、政権交代を促進させる手は考えずに、アサド氏が再び化学兵器を使用することを止めさせるための局地爆撃について議論していた。しかしいまや、アサド氏を制止するだけでなく、彼の化学兵器の力そのものを「減じる」ことについても議論されている。そうすることが、アサド政権をより大局的に弱体化させることつながるのではないか、と、9月3日に上院議員たちが、アメリカ統合参謀本部議長マーティン・デンプシー陸軍大将に尋ねた。彼は、それが「追加の恩恵」となり、アサド政権を協議の場に参加させることができるかもしれない、と回答した。オバマ氏の限定的な気乗りしない治安活動には、議会がその承認を与えるか保留するか以前に、別の論点から結論がもたらされるだろう。

グーグルは政府に情報を提供すべきか

The Economist の記事を訳出しました。
Surveillance: Should the government know less than Google?
原文はこちらから読めます。


監視
グーグルは政府に情報を提供すべきか
2013年6月11日

 まず最初に、もっとも議論が沸騰している問題を片付けておこう。エドワード・スノーデン(訳注:米政府の個人情報収集を暴露した人物)は、国家安全保障局がどれだけ電気通信を監視していたかを暴露するために告発をした。そしてアメリカの人々は、テロ攻撃を未然に防ぐためにこの程度の監視を認めるべきどうか議論できるようになった。以前は、政府が、国家安全保障局が何をしているのか、大ざっぱな概要さえも公表したがらなかったため、私たちは議論することさえできなかった。国家安全保障局が何をどこまで監視しているのかいま以上に知ることは、テロリストたちに彼らのコミュニケーションを隠蔽するためのより巧妙な予防措置をとらせてしまう、若干のリスクがあるかもしれない。しかしそのリスクは、どうにか対処できそうだし、この問題に対して、アメリカ人、そして他の国々の人々が、政府が私たちのオンライン上の行動を監視することをどこまで許容できると考えているのか、ついに率直な議論ができることに比べれば、とるに足らない。

 それでは、政府はどの程度までアクセス権限を持っているべきなのか。ここで、考えるべきことがいくつかある。

1)グーグルのサーバは、そのサービス開始当初から、ユーザに対して適切な広告を提供するためとスパムをブロックするために、Gmailユーザのメールの中身をチェックしてきた。マイクロソフト、ヤフー、そして、他のすべてのメジャーな検索エンジンとメールサービスを提供する企業は、多かれ少なかれ同様のことをやっている。いまこの時代において、あなたがYouTubeでバーベキューの調理法についてのビデオを見て、友達にハンバーガー料理に招待するメールを書いたのであれば、あなたは、ブラウザに突然表示されたポータブル・ガス・グリル「ファイアー・マジック・オーロラ 660s」の広告を見て驚いてはいけない。グーグルは、あなたがインターネット上で何を見て、何を書いているのかを知っている。そして、あなたのような顧客を探している民間企業へ、喜んでこの情報を売り飛ばす。※

2)YouTubeでバーベキューの調理法についてのビデオではなく、パキスタンでの処刑の映像、それには馬に乗ってカリフの地位復興へと向かう、黒い旗をはためかせる騎手たちのロマンティックな映像がついている、を見ていたと想像してみて欲しい。そして、あなたが、小包を組み立てるための素材は大体そろえたが手頃な圧力鍋が見つからないと、あなたの兄弟にメールを書いたとしよう。グーグルが、閲覧履歴とメールの内容に基づき、手頃な圧力鍋の広告をあなたに送るようにウィリアムズ・ソノマ(訳注:調理器具メーカー)と契約を結ぶことは、容認されている。(このことは、いまでは、地球上すべての産業の基盤となっているため、これを容認しないと決定することは、重大な経済的結果をもたらすだろう。)

3)そしてようやく鍵となる問題に辿り着く。グーグルが、あなたのメールを検索して得た情報を、ウィリアムズ・ソノマに広告サービスを売り込むために使うのは許容範囲内だったとして、政府が圧力鍋と処刑映像の組み合わせを求めている時、それを政府に伝えるのはいけないことなのだろうか?

4)これは簡単に答えの出る問いではない。民間団体にとって合法的なことの多くも、政府にとってはそうではないことがる。これもそのうちのひとつかもしれない。あるいは、私たちは、グーグルがユーザの情報に基づいてネット広告の契約を結ぶことは容認するが、ユーザの同意なしに、情報を私企業などの民間団体や政府に渡すことは容認しないと決断しても良いかもしれない。その場合、政府はグーグルに、検索されることに同意したユーザの情報だけを求めることができるようになるだろう。一方で、技術的な応急処置が、ユーザに同意を求めるこの種の義務を取るに足らないものにする可能性もある。同意を求めることでユーザの匿名性を守ろうとしても、概ねうまくいかないものだ。人々は、普通、どこかのタイミングで、最後に「はい」をクリックする。それは、どれだけプライバシーが保証されていたとしても、純粋に、論理的にも機能的にも、不適切である。例えは、欧州連合による、Webサイトはクッキーを受け入れる際はっきりとユーザに同意を求めなくてはならない、という要求は、ヨーロッパ人の貴重な時間を無意味なポップアップをクリックさせるのに費やさせることでようやく成し遂げられるバカバカしいまでの時間の浪費に過ぎない。

 ここに根本的な問題がある。オンライン上の世界では、本質的に、私たちがするすべてのことは、私たちにサービスを提供している企業によって、常に記録され、検索されているということである。そういった企業が商用目的で情報を使用することを禁じるべきかどうか、私たちが問題にした時代もあったが、それはもはや過去のことだ。現在、私たちが問いかけている問題は、国の安全政策のために政府がプライベートな検索アーカイブにアクセスすることが許されるべきかどうか、ということだ。政府が私たちをスパイしている訳ではない。グーグルが私たちをスパイしており、政府がグーグルに一定の成果を求めているのだ。

 私たちはここで何を恐れるべきか、論理的に考える必要がある。問題は、オンライン上のプライバシーを、政府から守るための法体系がないということではなく、むしろ、誰からであっても守るための法体系がまったく存在しないことにある。企業からプライバシーを守るために有効な領域をオンライン上に確保する法や規制がないのであれば、政府からオンライン上のプライバシーを確保しようとする試みは非合理なものになるだろう。

※ 注:グーグルは情報自体を民間団体に渡してはいない。グーグルは、ユーザの行動や嗜好についての情報に基づき、目的に合わせた広告表示やその他のサービスを、民間団体に売っている。グーグルのプライバシーポリシーは、こちら

売りものにならない性

The Economist の記事を訳出しました。
Prostitution: Sex doesn’t sell
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売春
売りものにならない性

歴史ある産業が、深刻な不況にあえぐ
2013年6月15日

 イングランド西部で他の「大人の女性たち」と共同でプライベート・フラットを経営する娼婦、デビーにとって、いまは生きにくい時代だ。彼女は、現在、1日に2回か3回、客をとっているが、1年前であれば、8回か9回、客をとっていた。彼女は値下げを断行した。「そうでもしなかったら、続けていられなかったと思うわ。」いまでは家具を組み立てたり、フリーマーケットに出店する方が、体を売るよりも稼ぎになる、と彼女は言う。

 5,000以上のマッサージ・パーラーや娼婦のレヴューを掲載するWebサイトを運営するジョージ・マッコイは、多くの人々がもがいていると言う。性産業で働く人々は、値下げを強いられているそうだ、と彼は言う。他の産業と同様、マッサージ・パーラーやプライベート・フラットは、家賃とエネルギー・コストの値上がりに苦しんでいる。マッコイ氏のWebサイトですら、厳しい状況にある。訪問者は3分の1減少した。


大衆市場における性産業の行き詰まり

 このことは、ある程度は、停滞する経済を反映している。2012年末の時点での総消費支出は、2007年のピーク時と比べて、4パーセントほど低かった。イングランド南部で、写真家としての収入の足しに、パートタイムでどこにも属さずにエスコートとして働くヴィヴィアンは、性にお金を使うことはいまや贅沢なのだ、 と言う。「食べ物の方が重要だし、不動産はもっと重要。ガソリンはさらに重要だもの。」彼女は不況に入ってからは、客がまったくつかないより20ポンド(3,000円)値下げした方がマシと、料金をディスカウントしている。ある客たちはセックスをしたがるのと同じくらい就職難について話したがっている、と別の女性は言う。

 少なくとも大きな町や都市では、売春ですべての生活費をまかなえる日々は遠いものとなった、とヴィヴィアンは考えている。「今はバカバカしいほど競争が激しくなっているのよ」と、彼女は嘆く。英国売春共同体のキャリ・ミッチェルは、かつてより多くの人々が売春をするようになっている、と認める。ウェストミンスターで働く女性たちのある部分は、市場がとても冷え切っているため、料金を半額にしたと言う。ロンドンでは、また次第にその他の地域でも、他国からの移民が競争を激化させている。しかしエディンバラの高級エスコート、ソフィによれば、学生や最近失業した人々を含む新人たちが流入してきており、同程度の料金を提示しているのだと言う。

 それに比べ、性産業のある部分は安定している。スコットランドの別のエスコート、マリーは、市場の要では、習わしがすっかり廃れた訳ではない、と言う。彼女によると、ディスカウントをせがまれるという報告をする女の子は次第に増えているという。しかし、値下げした人も、時に、バーゲンに引き寄せられてきた客を見てこれはまずいと思いとどまり、すぐに再び値上げする。マッコイ氏によれば、SMの市場もまた、良く持ちこたえているという。もっとも安価なマッサージ・パーラーのいくつか、例えば、無一文には魅力的なシェフィールドの「クラブ25」(その店名は価格を表している)は、繁盛している。一部の新店舗は、電話やWebカメラを使ったサービスを格安で提供している。

 料金がもっとも低く、生きていくのがもっとも過酷なストリートでは、話はもっと悲惨だ。性産業で働く人々に公共医療サービスを提供する、ロンドン東部の国民健康保険センター「オープン・ドアーズ」の事業主任、ジョージナ・ペリーは、過去2、3年において、掃除婦などの低賃金の仕事についた元娼婦たちの一部が、他の仕事を見つけるのが困難になったことで、性産業に戻ってきた、と言う。20ポンド(3,000円)がせいぜいの見返りで、そういった女性たちはストリートに帰ってくる。

 こういった変化の大部分は、イギリスの不安定な非正規雇用の経済における、より広範な趨勢を反映している。しかし、性の仕事に伴う危険は、他の産業のそれよりも大きい。Webサイトに宣伝を出す新人たちは、自分のプロフィールに、顔写真やメールアドレス、大胆なサービスの申し出を掲載していると、エディンバラのエスコート、ソフィは、あっけにとられたように言う。娼婦たちは、客を求めて彷徨い、見知らぬ、危険であるかもしれない男たちと交渉しなくてはならない。性産業で働く人々に暴力被害の報告を促す施策「アグリー・マグ」に、6月に入ってから、310人がコンタクトしてきた。しかし、警察に行ったのは、そのうちたった4分の1だった。性産業で働く人々は、少ない見返りのために、大きなリスクを背負っているのだ。

オンライン上のプライバシー

The Economist の記事を訳出しました。
Online privacy: How to disappear
原文はこちらから読めます。


オンライン上のプライバシー
どのように姿をくらますか

それは難しい。そして、さらに難しくなっていく。

2013年6月15日

 アメリカのスパイ活動の詳細が公になるにつれて、ジョージ・オーウェルの常に監視する国家についての寓話『1984』の売り上げが急速に伸びている。そして同様に、戦略技術共同体(タクティカル・テクノロジー・コレクティブ)によって運営されているWebサイトへのトラフィックも急速に伸びている。共同設立者のステファニー・ハンキー氏も、「人々に自分たちが監視されることについて納得してもらうのは容易ではないだろう」と認めている。もはや容易でないことは明白だ。

 監視反対論者たちは、いつも、疑いを招くようなコミュニケーションを人目から隠しておくために手間のかかる手段をとってきた。しかし、今やコンピュータは、ありふれた活動の中にさえ、疑わしいパターンを検知する。それは、もっとも献身的な秘密活動家たちに、さらなる警戒を要求する。そして彼らは、三つの試練に直面することになる。

 ひとつ目は、情報の伝達過程における、第三者からの詮索の阻止である。暗号化されていないEメールは、絵はがきと同じくらい無防備であると、ヨーロッパ大学協会(ヨーロピアン・ユニバーシティ・インスティテュート)のインターネット専門家のベン・ワグナー氏は警告する。いくつかのWebクライアントで機能する暗号化ソフトウェア、Pretty Good Privacy(PGP)は、このような盗み読みを防ぐことができる。

 もう一つの課題は、どこであれスパイが忍び込んでいるところからデータが盗み出されるのを防ぐことである。それは、政府に情報を流しているとみて間違いない、ソーシャル・ネットワークや検索エンジンのようなサービスを使わないことを意味する。あるいは、未踏の領域にそれらにとって代わる手段を見つけ出すしかない。フリーウェアがたくさんインストールされたデスクトップ・コンピュータこそが、安全なEメールサーバを構築するものだ。だから真の秘密活動家は、通信機器から、一企業が独占的に開発したオペレーティング・システムを除外する。(オペレーティング・システムのほんの一部が危険にさらされることで、あなたのすべてのファイルがアクセスされてしまわないように。)

 コミュニケーションがあったかどうかを記録するシステムを回避するのは、さらに困難を極める。「モバイルを使用するのは、あなたが為しうる最悪の行為だ」と、戦略技術共同体のマレク・ツチンスキー氏は言う。電話会社が残している通話ログに記録が残らないようにするのは困難だ。それに比べれば、インターネット利用者は、より安全である。Torのようなフリーウェアは、巧妙な経路でリクエストを送信することで、その身元を隠すことができる。

 しかし、レーダーの網にかからないでいるのは、うんざりするほど労力を強いられるものであり、それを維持するのは難しい。無配慮な他人とのコンタクトは、覆いを吹き飛ばす可能性がある。技術オタクでさえ、より単純なやり方で、自らを危険にさらしうる。とても基本的なプライベートモードを提供しているグーグルのブラウザ’Chrome’は、ユーザに対して皮肉っぽく「あなたの後ろに誰か立っていないか」気をつけるように警告する。

 ハンキー氏は、人々のプライバシーを守るために、テクノロジーだけでなく、法律を好むかもしれない。彼女は、ヨーロッパやそれ以外の国の政府に、アメリカの「デジタルによる独占」にとって代わる手段を後押ししてもらいたいと望んでいる。一方、ワグナー氏は用心深くあることを推奨する。曰く、「おそらくある種のものは、そもそもはじめからオンラインにあってはならないのだ。」

女の子の赤ちゃんを巡る戦争

The Economist の記事を訳出しました。
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The Economist Mar 4th 2010
The war on baby girls
Gendercide

女の子の赤ちゃんを巡る戦争
ジェンダーサイド-「性別による虐殺」-

殺され、堕胎され、放置され、少なくとも1億人の女の子が消えた-
そしてその数は増えつつある

 想像してみて欲しい。あなたは、急速に成長する貧しい国で、初めての子供を待ち望む若いカップルのひとりだ。あなたは、新しく生まれた中流階級に属している。あなたの収入は増えつつある。あなたは小さな家族を望んでいる。しかし、娘より息子を重視する伝統的な価値観があなたの周囲を支配している。恐らく、家族が生活していくためには、過酷な肉体労働が依然として必要とされるだろう。恐らく、息子だけが土地を相続できる。恐らく、娘は結婚によって他の家族の一員となる運命にあるが、あなたは年老いた時に誰かに面倒を見てもらいたいと思っている。恐らく、娘は持参金を必要とする。

 次に、あなたは超音波スキャンが使えると想像してみて欲しい。それには12ドルかかるが、支払えない額じゃない。スキャンは、お腹の中の子供が女の子であると告げる。あなた自身は、男の子を望んでいる。あなたの家族も、男の子を欲している。あなたには、女の子の赤ちゃんを殺す気なんてさらさらない。辺鄙な場所で村人たちが殺しているようには。しかし、堕胎は、それとは違って見える。さあ、あなたならどうする?

 大多数のカップルは次のように答える。娘を堕胎し、次の子供が息子であることに期待を繋ぐ、と。中国や北インドでは、100人の女の子につき、120人以上の男の子が生まれている。自然の摂理では、女の子よりも男の子の方が若干多く生まれるものだ。男の子の方が幼児期の病気に罹りやすいことを相殺するために。しかし、ここまでの差になることはない。

 中絶に反対する者にとって、これは大量虐殺に等しい。中絶は(ビル・クリントンの言葉を借りれば)「安全で、合法で、めったにない」ものでなくてはならない、という本紙のような立場を取る人々にとって、中絶の是非はその状況に大きく依存するとはいえ、このように個人が行動する社会にもたらされる累積された結果は甚大である。中国だけに目立って、「葉のない枝」と呼ばれる、アメリカの若い男性すべてに匹敵する大勢の若い独身男性がいる。どこの国でも、家庭を持たない若い男性は、トラブルの元となる。アジアの社会では、結婚と子供は、一般に認められた社会参加へのステップであり、独身男性は無法者とほとんど同義だ。犯罪率、汚職、性犯罪、そして女性の自殺率さえもすべて増加傾向にあり、男女比が偏った世代が成人に達すれば、それらはさらに増加することになるだろう。

 これを「性別による虐殺」と呼ぶのは誇張でも何でもない。女性は100万単位で行方が分からなくなっている。堕胎されたか、殺されたか、放置されて死に至ったか。1990年に、インドの経済学者アマルティア・センは、その数を100万人と見積もった。今では、犠牲者はさらに増えている。わずかな慰めは、多くの国々はその被害を抑えることが可能だということだ。そして、その中のひとつの国、韓国は、最悪の結果は回避されうることを示した。他の国々は、韓国から学ぶ必要がある。もしも彼らに虐殺を止める気があれば。

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幼い姉妹たちの喪失と死

 中国と北インドに不自然なほど男の子の数が多いことは良く知られている。しかし、ほとんどの人が、その問題がいかに深刻であるか、あるいはそれが増加し続けていることに、気づいていない。中国では男女比の不均衡は、1980年代に生まれた世代では、女の子100人に対して男の子108人だった。2000年代初頭では、女の子100人に対して男の子124人だった。中国のいくつかの地方では、その割合は、女の子100人に対して男の子130人と例を見ない比率になっている。虐殺は、中国で最悪だが、より広範に広がってきている。台湾やシンガポールを含む他の東アジアの国々、西方のバルカン半島とコーカサス地方のかつての共産主義国、そしてアメリカの人口の一部(例えば、中国系や日系のアメリカ人)は、すべて男女比が釣り合っていない。「性別による虐殺」は、ほとんどすべての大陸に存在する。それは、富む者、貧しい者、教育を受けた者、読み書きができない者、ヒンドゥー教徒、ムスリム教徒、儒教徒、キリスト教徒、すべてを同様に蝕んでいる。

 富はそれを抑制しない。台湾とシンガポールは、開かれた豊かな経済国だ。中国とインドで男女比がもっとも釣り合っていないのは、もっとも豊かで、もっとも教育が進んだ地域だ。そして、これほど多くの他の国々が蝕まれているからには、中国の一人っ子政策は、問題の一部でしかありえない。

 実際のところ、女の子の赤ちゃんの虐殺は、3つの圧力の産物だ。息子を望む古めかしい嗜好、より小さな家族を求める現代的欲望、そして、超音波スキャンを始めとする、胎児の性別を判断するテクノロジーである。子供の数が4人とか6人が普通の社会では、結果的にほぼ確実にひとりは男の子が生まれる。息子への嗜好は、娘の犠牲の上に存在するべきではない。しかし、今日では、カップルはふたりの子供を欲しがる。あるいは、中国ではひとりしか許されていない。彼らはひとりの息子を求めて未だ生まれぬ娘を犠牲にすることになる。中国とインドの現代的で開かれた地域でもっとも性別の割合が釣り合っていないのは、それが原因だ。また、最初の子供の後、割合がさらに釣り合わなくなるのも、そこに原因がある。両親は、初めての子供に娘を受け入れるかも知れない。しかし、恐らく最後となる次の子供が男の子となるように、何らかの手を講じるだろう。いくつかの地域では、3人目の子供の男女比には、2倍以上の開きがある。

空の半分が落ちてくるのをどのように防ぐか

 このように、女の子の赤ちゃんは、古めかしい偏見と小さな家族を求める現代の嗜好の悪辣な組み合わせの犠牲となっている。ひとつの国だけが、このパターンを変えることに成功した。1990年代には、韓国は、中国とほぼ同じくらい性別の割合が釣り合っていなかった。今日では、それは自然な割合に向かっている。韓国はこれを意識的に成し遂げたのではなく、その文化が変容したのである。女子教育や、差別に対する訴訟、平等の権利の浸透が、息子への嗜好を、古臭く不必要なものに見せたのである。現代の要請が、最初は偏見を助長し、次にそれを克服したのだ。

 しかしこれは、韓国が豊かになった時に起こったことだ。もしも、収入が韓国の水準の4分の1と10分の1である中国とインドが、韓国と同じくらい豊かになるまで待つとすれば、何世代分もの時間を要するだろう。変化のスピードを早めるために、彼らはいずれにせよ自身の関心に基づく行動を起こす必要がある。中国が一人っ子政策を撤廃すべきなのは火を見るより明らかだ。中国の指導者たちは、人口増加を恐れ、一人っ子政策の撤廃を拒み、人権への西洋の心配を否定するだろう。しかし、一人っ子への制限は、出生率を減らすのにもはや必要ではなくなっている。(それはかつては必要だったかもしれないが、中国同様、他の東アジアの国々は、人口問題をある程度解消した。)そして一人っ子への制限は、その国の性別の割合の均衡を大きく損なわせ、酷い結果をもたらす。胡錦濤国家主席は、「調和した社会」を作り出すことが自分の信条だと言う。それはひとつの政策が家族の生活をここまで深刻に歪めている間は達成されようがない。

 そしてすべての国々は、女の子の価値を高める必要がある。彼らは女子教育を奨励しなくてはならない。娘が財産を継承することを妨げる法律や慣習を撤廃しなくてはならない。自然の摂理ではありえない男女比になっている病院や医院を見せしめとして罰さなくてはならない。テレビキャスターから婦人警官に至るすべてを動員して、女性を社会生活に組み込まなくてはならない。毛沢東は、「女性は空の半分を支えている」と言った。空を落下させることになる「性別による虐殺」を防ぐために、人々はもっと手を尽くさなくてはならないのだ。

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