売りものにならない性

The Economist の記事を訳出しました。
Prostitution: Sex doesn’t sell
原文はこちらから読めます。


売春
売りものにならない性

歴史ある産業が、深刻な不況にあえぐ
2013年6月15日

 イングランド西部で他の「大人の女性たち」と共同でプライベート・フラットを経営する娼婦、デビーにとって、いまは生きにくい時代だ。彼女は、現在、1日に2回か3回、客をとっているが、1年前であれば、8回か9回、客をとっていた。彼女は値下げを断行した。「そうでもしなかったら、続けていられなかったと思うわ。」いまでは家具を組み立てたり、フリーマーケットに出店する方が、体を売るよりも稼ぎになる、と彼女は言う。

 5,000以上のマッサージ・パーラーや娼婦のレヴューを掲載するWebサイトを運営するジョージ・マッコイは、多くの人々がもがいていると言う。性産業で働く人々は、値下げを強いられているそうだ、と彼は言う。他の産業と同様、マッサージ・パーラーやプライベート・フラットは、家賃とエネルギー・コストの値上がりに苦しんでいる。マッコイ氏のWebサイトですら、厳しい状況にある。訪問者は3分の1減少した。


大衆市場における性産業の行き詰まり

 このことは、ある程度は、停滞する経済を反映している。2012年末の時点での総消費支出は、2007年のピーク時と比べて、4パーセントほど低かった。イングランド南部で、写真家としての収入の足しに、パートタイムでどこにも属さずにエスコートとして働くヴィヴィアンは、性にお金を使うことはいまや贅沢なのだ、 と言う。「食べ物の方が重要だし、不動産はもっと重要。ガソリンはさらに重要だもの。」彼女は不況に入ってからは、客がまったくつかないより20ポンド(3,000円)値下げした方がマシと、料金をディスカウントしている。ある客たちはセックスをしたがるのと同じくらい就職難について話したがっている、と別の女性は言う。

 少なくとも大きな町や都市では、売春ですべての生活費をまかなえる日々は遠いものとなった、とヴィヴィアンは考えている。「今はバカバカしいほど競争が激しくなっているのよ」と、彼女は嘆く。英国売春共同体のキャリ・ミッチェルは、かつてより多くの人々が売春をするようになっている、と認める。ウェストミンスターで働く女性たちのある部分は、市場がとても冷え切っているため、料金を半額にしたと言う。ロンドンでは、また次第にその他の地域でも、他国からの移民が競争を激化させている。しかしエディンバラの高級エスコート、ソフィによれば、学生や最近失業した人々を含む新人たちが流入してきており、同程度の料金を提示しているのだと言う。

 それに比べ、性産業のある部分は安定している。スコットランドの別のエスコート、マリーは、市場の要では、習わしがすっかり廃れた訳ではない、と言う。彼女によると、ディスカウントをせがまれるという報告をする女の子は次第に増えているという。しかし、値下げした人も、時に、バーゲンに引き寄せられてきた客を見てこれはまずいと思いとどまり、すぐに再び値上げする。マッコイ氏によれば、SMの市場もまた、良く持ちこたえているという。もっとも安価なマッサージ・パーラーのいくつか、例えば、無一文には魅力的なシェフィールドの「クラブ25」(その店名は価格を表している)は、繁盛している。一部の新店舗は、電話やWebカメラを使ったサービスを格安で提供している。

 料金がもっとも低く、生きていくのがもっとも過酷なストリートでは、話はもっと悲惨だ。性産業で働く人々に公共医療サービスを提供する、ロンドン東部の国民健康保険センター「オープン・ドアーズ」の事業主任、ジョージナ・ペリーは、過去2、3年において、掃除婦などの低賃金の仕事についた元娼婦たちの一部が、他の仕事を見つけるのが困難になったことで、性産業に戻ってきた、と言う。20ポンド(3,000円)がせいぜいの見返りで、そういった女性たちはストリートに帰ってくる。

 こういった変化の大部分は、イギリスの不安定な非正規雇用の経済における、より広範な趨勢を反映している。しかし、性の仕事に伴う危険は、他の産業のそれよりも大きい。Webサイトに宣伝を出す新人たちは、自分のプロフィールに、顔写真やメールアドレス、大胆なサービスの申し出を掲載していると、エディンバラのエスコート、ソフィは、あっけにとられたように言う。娼婦たちは、客を求めて彷徨い、見知らぬ、危険であるかもしれない男たちと交渉しなくてはならない。性産業で働く人々に暴力被害の報告を促す施策「アグリー・マグ」に、6月に入ってから、310人がコンタクトしてきた。しかし、警察に行ったのは、そのうちたった4分の1だった。性産業で働く人々は、少ない見返りのために、大きなリスクを背負っているのだ。

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