グーグルは政府に情報を提供すべきか

The Economist の記事を訳出しました。
Surveillance: Should the government know less than Google?
原文はこちらから読めます。


監視
グーグルは政府に情報を提供すべきか
2013年6月11日

 まず最初に、もっとも議論が沸騰している問題を片付けておこう。エドワード・スノーデン(訳注:米政府の個人情報収集を暴露した人物)は、国家安全保障局がどれだけ電気通信を監視していたかを暴露するために告発をした。そしてアメリカの人々は、テロ攻撃を未然に防ぐためにこの程度の監視を認めるべきどうか議論できるようになった。以前は、政府が、国家安全保障局が何をしているのか、大ざっぱな概要さえも公表したがらなかったため、私たちは議論することさえできなかった。国家安全保障局が何をどこまで監視しているのかいま以上に知ることは、テロリストたちに彼らのコミュニケーションを隠蔽するためのより巧妙な予防措置をとらせてしまう、若干のリスクがあるかもしれない。しかしそのリスクは、どうにか対処できそうだし、この問題に対して、アメリカ人、そして他の国々の人々が、政府が私たちのオンライン上の行動を監視することをどこまで許容できると考えているのか、ついに率直な議論ができることに比べれば、とるに足らない。

 それでは、政府はどの程度までアクセス権限を持っているべきなのか。ここで、考えるべきことがいくつかある。

1)グーグルのサーバは、そのサービス開始当初から、ユーザに対して適切な広告を提供するためとスパムをブロックするために、Gmailユーザのメールの中身をチェックしてきた。マイクロソフト、ヤフー、そして、他のすべてのメジャーな検索エンジンとメールサービスを提供する企業は、多かれ少なかれ同様のことをやっている。いまこの時代において、あなたがYouTubeでバーベキューの調理法についてのビデオを見て、友達にハンバーガー料理に招待するメールを書いたのであれば、あなたは、ブラウザに突然表示されたポータブル・ガス・グリル「ファイアー・マジック・オーロラ 660s」の広告を見て驚いてはいけない。グーグルは、あなたがインターネット上で何を見て、何を書いているのかを知っている。そして、あなたのような顧客を探している民間企業へ、喜んでこの情報を売り飛ばす。※

2)YouTubeでバーベキューの調理法についてのビデオではなく、パキスタンでの処刑の映像、それには馬に乗ってカリフの地位復興へと向かう、黒い旗をはためかせる騎手たちのロマンティックな映像がついている、を見ていたと想像してみて欲しい。そして、あなたが、小包を組み立てるための素材は大体そろえたが手頃な圧力鍋が見つからないと、あなたの兄弟にメールを書いたとしよう。グーグルが、閲覧履歴とメールの内容に基づき、手頃な圧力鍋の広告をあなたに送るようにウィリアムズ・ソノマ(訳注:調理器具メーカー)と契約を結ぶことは、容認されている。(このことは、いまでは、地球上すべての産業の基盤となっているため、これを容認しないと決定することは、重大な経済的結果をもたらすだろう。)

3)そしてようやく鍵となる問題に辿り着く。グーグルが、あなたのメールを検索して得た情報を、ウィリアムズ・ソノマに広告サービスを売り込むために使うのは許容範囲内だったとして、政府が圧力鍋と処刑映像の組み合わせを求めている時、それを政府に伝えるのはいけないことなのだろうか?

4)これは簡単に答えの出る問いではない。民間団体にとって合法的なことの多くも、政府にとってはそうではないことがる。これもそのうちのひとつかもしれない。あるいは、私たちは、グーグルがユーザの情報に基づいてネット広告の契約を結ぶことは容認するが、ユーザの同意なしに、情報を私企業などの民間団体や政府に渡すことは容認しないと決断しても良いかもしれない。その場合、政府はグーグルに、検索されることに同意したユーザの情報だけを求めることができるようになるだろう。一方で、技術的な応急処置が、ユーザに同意を求めるこの種の義務を取るに足らないものにする可能性もある。同意を求めることでユーザの匿名性を守ろうとしても、概ねうまくいかないものだ。人々は、普通、どこかのタイミングで、最後に「はい」をクリックする。それは、どれだけプライバシーが保証されていたとしても、純粋に、論理的にも機能的にも、不適切である。例えは、欧州連合による、Webサイトはクッキーを受け入れる際はっきりとユーザに同意を求めなくてはならない、という要求は、ヨーロッパ人の貴重な時間を無意味なポップアップをクリックさせるのに費やさせることでようやく成し遂げられるバカバカしいまでの時間の浪費に過ぎない。

 ここに根本的な問題がある。オンライン上の世界では、本質的に、私たちがするすべてのことは、私たちにサービスを提供している企業によって、常に記録され、検索されているということである。そういった企業が商用目的で情報を使用することを禁じるべきかどうか、私たちが問題にした時代もあったが、それはもはや過去のことだ。現在、私たちが問いかけている問題は、国の安全政策のために政府がプライベートな検索アーカイブにアクセスすることが許されるべきかどうか、ということだ。政府が私たちをスパイしている訳ではない。グーグルが私たちをスパイしており、政府がグーグルに一定の成果を求めているのだ。

 私たちはここで何を恐れるべきか、論理的に考える必要がある。問題は、オンライン上のプライバシーを、政府から守るための法体系がないということではなく、むしろ、誰からであっても守るための法体系がまったく存在しないことにある。企業からプライバシーを守るために有効な領域をオンライン上に確保する法や規制がないのであれば、政府からオンライン上のプライバシーを確保しようとする試みは非合理なものになるだろう。

※ 注:グーグルは情報自体を民間団体に渡してはいない。グーグルは、ユーザの行動や嗜好についての情報に基づき、目的に合わせた広告表示やその他のサービスを、民間団体に売っている。グーグルのプライバシーポリシーは、こちら

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