空爆すべきか、しないべきか

The Economist の記事を訳出しました。
America and Syria: To bomb, or not to bomb?
原文はこちらから読めます。


アメリカとシリア
空爆すべきか、しないべきか

大統領が行動することの正当性を訴える

2013年9月7日

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 イラクでの「馬鹿げた戦争」に反対したことで、バラク・オバマは、大統領当選への道が開かれ、何もせぬうちにノーベル平和賞を手に入れた。オバマ大統領は、いま、戦争で陣頭指揮をとることの孤独を学んでいる。彼は議会からの正式な支持があろうが、あるいは(彼がほのめかしているように)なかったとしても、シリアでの軍事行動へと、気乗りしないアメリカを立ち向かわせようとしている。

 8月31日に、オバマ氏は、1000人以上の死者を出した神経系の化学兵器による攻撃に対する報復として、バッシャール・アサド政権への攻撃について議会の承認を求めると公表して人々を驚かせ、ワシントンで議論を沸騰させた。議会の支持が得られるかどうかは定かではなく、また、世論調査はアメリカ人がシリアへの空爆に反対していることを示しているが(表参照)、オバマ氏は、将来の化学兵器の使用を未然に防ぐために行動を起こすことが必要だと断言した。

オバマのジレンマ

 彼は、サンクトペテルブルクで開催されるG20サミットに向かう途上、スウェーデンでの短い滞在中に、「我々は行動しなくてはならないと思う」と述べた。決然たる意思と非難がアサド氏の化学兵器使用に対する唯一の返答であるならば、「罰さない」ことは、国際的な基準を無視しても構わないというシグナルを送ることになる、と彼は言う。。

 それは皮肉に満ちた一週間だった。オバマ氏は、これまで、シリアに軍事介入することについて乗り気でなく、アメリカの介入は良い結果より悪い結果をもたらしかねないと主張してきた。その彼が、反対勢力に、中東で軍事行動を起こすか、あるいは、アサド政権を罰さずにおくかという決定について責任を共有させるため、議会に赴いた。

 しかし、党派を超えた合意を形成する代わりに、オバマ氏は、両党内の深い亀裂を衆目の前に曝すことになった。議会の支援を求める中で、常に抜け目ない最高指揮官たる彼は、自分が、他国の道徳問題に首を突っ込んで包括的な議論をしていることを、また、彼が事前に考えていた以上に過酷な軍事行動になることを自覚した。

 彼が所属する民主党は、左派のハト派とオバマ支持派に分断されている。対する共和党は、タカ派と不干渉主義派、そして、この「社会主義」の大統領を信用しない、相当数の保守陣営に分断されている。

 オバマ氏は、2012年にアサド氏に、化学兵器の使用は「超えてはならない一線」を超えることになると公に警告したことがあり、そのことについての自分自身の信用問題を気にかけているわけではないと弁解しつつも、議論を広めようと奮闘した。このような兵器に対する国際協定を可決した時点で、全世界は超えてはならない一線を引き、アメリカ議会もまた、同じ国際協定に調印した際に一線を引いたのだと、今週、彼は述べた。

 しかし、この議論が、ルワンダでの大虐殺からシリアでの新たな殺戮に至るある種の犯罪行為に対して世界中の人々が一致団結して立ち向かうべきだ、という、従来とは趣を変えた主張にオバマ氏を導くことになった。彼は、ストックホルムで、アサド氏への外交的圧力はすでに試みられた、と述べ、「為さねばならない道徳的行為は、見て見ぬふりをすることではない」と言った。「私は人々に問わなくてはならない。もしもあなたが無辜の民が殺されることに憤慨しているのであれば、あなたは、それに対して何を為すのか、と。」

 ワシントンを去るまでの間に、オバマ氏は、下院議長であるジョン・ベイナーを含む共和党のリーダーたちと議会の民主党議員たちから、何らかの形の介入を行うことへの公の支持を得た。彼はまた、長年にわたり議会に強い影響力を持つ親イスラエルの活動団体、AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)からの支持を取り付けた。

 9月4日には、上院外交委員会が、90日間という期限付きの、シリアでの限定的な軍事行動の徴兵許可を承認した。それは、地上軍を「軍事作戦」に使うことを禁じているが、その一方で、特別軍による緊急時の対応のための例外も設けられている。上院と下院でのさらなる投票は、議会が9月9日に正式に再開された後に行われる。

 しかし、人民主義の強い風潮が政局を支配するいま、党派がリーダーシップを発揮するという考え方は弱まってきている。少なくとも、投票者の怒りが、揺らいでいる議員に、反対票を投ずるもっともな口実を与えている。共和党の分裂には目を引くものがあった。ジョン・マケイン上院議員のような外交政策の強硬派は、シリアの反乱軍へのさらなる支援と、より大規模な攻撃が必要だとまくし立てた。一方、人民主義右派では、ケンタッキー州の上院議員ランド・ポールと、テキサス州のテッド・クルーズが、シリアの財宝のためにアメリカ人の血を無駄に流すのか、と競うように非難の声を上げた。ポール氏は、シリア攻撃はアメリカに何の国際的利益ももたらさない、と言う。クルーズ氏は、アメリカにとって「この戦争は何の意味もない」と言う。彼は、シリアの反乱軍がイスラム教徒で占められている恐れについて言及しつつ、アメリカの軍隊が「アルカイダの空軍」の役割を演じてはならないと、気炎を上げた。

 議会の承認を得るため、オバマ氏とその陣営は、忠実なる民主党議員だけでなく、マケインのような外交的タカ派に対しても呼びかけていかなくてはならないだろう。こうしたことが、当初は浅はかだった軍事計画についての議論を、広め、深めることに、議員たちを導いた。

 たった数日前には、ホワイト・ハウスの高官たちは、政権交代を促進させる手は考えずに、アサド氏が再び化学兵器を使用することを止めさせるための局地爆撃について議論していた。しかしいまや、アサド氏を制止するだけでなく、彼の化学兵器の力そのものを「減じる」ことについても議論されている。そうすることが、アサド政権をより大局的に弱体化させることつながるのではないか、と、9月3日に上院議員たちが、アメリカ統合参謀本部議長マーティン・デンプシー陸軍大将に尋ねた。彼は、それが「追加の恩恵」となり、アサド政権を協議の場に参加させることができるかもしれない、と回答した。オバマ氏の限定的な気乗りしない治安活動には、議会がその承認を与えるか保留するか以前に、別の論点から結論がもたらされるだろう。

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