英国はどちらのボリスを得るだろうか?

The Economist の記事を訳出しました。
The Conservative leadership: Which Boris would Britain get?
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保守的なリーダーシップ
英国はどちらのボリスを得るだろうか?

英国の次期首相候補は、大衆に迎合することを抗えない。不吉な今日の醜い政治

3年前の今週末に解き放たれたブレグジットという名のモンスターは、すでに2人のイギリス首相を飲み込んでいる。2016年6月24日に国民投票の結果が発表された数時間後、デイヴィッド・キャメロンは降伏した。テリーザ・メイは自信を持って始めたが、すぐに自分自身が追い詰められていることに気がついた。保守党議員は、彼女に代わって党首に、そして首相になる候補者リストを作成した。党員は7月末までに決定を下す。議員と活動家の間で圧倒的に有力なのはボリス・ジョンソンだ。

しかしそれは、いったいどちらのボリス・ジョンソンだろうか? ヨーロッパの諸都市を愉悦と侮蔑の混ざりあった目で眺める元外務長官は、時々によって異なる態度を装ってきた。2008年から16年にかけてのリベラルで国際的なロンドンの市長として、彼は移民と単一市場の美徳を説いた。彼は易々と鞍替えし、EU離脱キャンペーンの重要人物として、移住を批判し、以前は支持していたにもかかわらず、トルコがEUに加盟することの危険性について警鐘を鳴らした。そして現在、彼は右派の保守党党員の票を得ようとして、合意なしでEUを離脱する見通しについて明言する—それが障害になれば「ビジネスなんか知ったことか」と答える—そして、ブルカをまとった女性は「まるで郵便ポストみたいだ」と冗談を言う。

気が滅入ることに、このイカサマはうまくいっている。より穏健な候補者による決然としたキャンペーンにもかかわらず、ジョンソン氏は党員の投票で勝利すると目される人物だ。さらにわからないのが、職務において彼がどのように振る舞うかということだ。欧州離脱物語が長びくにつれて、イギリスはますます分極化してきている。大きく分断された国で、ジョンソン氏はどの観客の期待に応えようとするだろうか?

次期首相が選別されている方法は、候補となっているのがどのような人物なのかを推測しやすくしてくれない。党首は、総選挙に直面するのではなく、何よりもブレグジットを望む16万人の熱心な保守党の活動家によって選ばれる。今週の世論調査では、経済に「重大な損害」を与えたとしても、スコットランドと北アイルランドとの連合を解体したとしても、保守党自体を「破壊し」ても、大多数がEUを離脱したがっていることが判明した。候補者は詳細なマニフェストを作成していない。特にジョンソン氏は珍しいほどに恥ずかしがり屋であり、他の候補者と討論したり、ジャーナリストに質問される可能性をほとんど避けてきた。

指導哲学の欠如は彼の弱点というべきだ。しかし、このような騒がしい時代には、それが彼の成功の要となっている。彼は政治的な信念をほとんど持っていないので、人々は自分の信念の収納場所として彼を使うことができる。ハードコアの離脱派は、10月31日までにEUがより良い条件を提示することを拒否した場合、彼が合意なしで離脱するという考えに飛びついた。残留派は、彼が本当は心はリベラルであり、本当に危険なことは何もしないだろうと—さらには彼一流のサービス精神によりあえて期待を裏切って第2の国民投票さえ求めるかもしれないと—自分に言い聞かせる。彼の言葉がほとんど何も意味しないということは、彼が、過去に約束したことと無関関係に、結局自分たちが望むことを実行してくれるのではないかという合図として両サイドに受け取られる。

これは愚かであり、ドナルド・トランプを大統領に支持した連立を彷彿とさせる。トランプ氏の常軌を逸した約束(メキシコ国境の壁や、カナダとの貿易戦争)をある者は信じたが、それ以外は文字通り受け取るべきではない言動の一部と考えていた—そして、ぞっとするようなショックを受け続けることになった。2人の金髪爆弾の類似点はこれだけではない。ナルシシズム、怠惰、他人を利用する意欲と同様に、彼らは黒が白であり、その逆であると主張する才能を共有している。英国はまだ、さまざまな党の支持者たちが基本的事実について合意することすらできないアメリカの沈滞に苦しんでいない。しかし、奔放に自己矛盾しつつ大きな冗談に人を巻き込むジョンソン氏が率いる政府は、英国に同じ道をたどらせるだろう。

ジョンソン氏にとっての最善のケースは、ブレグジットの合意を3度拒否した議会に対して、彼がセールスマンとしてのスキルや、セールストーク、またはそれに似た方法を使うかもしれないことだ。メイ氏は最後の挑戦で58票減らした。それ以来、労働、保守の両党ともに、自民党とブレグジット党それぞれに群がっている彼らの支持者たちにブレグジットが与える影響を恐れている。選挙に当選したばかりで、自分の党内で人気があり、木でできているかのように生気がないメイ氏に対して磁石でできているかのように人を引きつけるジョンソン氏は、議員を十分に説得して彼らの考えを変えることができるかもしれない。本紙が望んでいる、彼が議会の行き詰まりを打開するために合意について国民投票を選ぶということは、ありそうにない。さらに言えば、彼についての多くが、ありそうにない。

悲しいかな、ジョンソン氏にとってありそうなのは、不利に働くケースのほうだ。彼は道標ではなく風見鶏であり、現時点においては、英国の風は危険な方角に向かって吹いている。先月のヨーロッパの選挙で最初にあらわれ、いまや合意なき離脱を約束して世論調査をリードしているポピュリストであるブレグジット党の急上昇は、その反乱を収める唯一の方法がそれを真似ることだと信じている保守党を怖がらせている。国民投票のだいぶ前から、保守党は、その支持者たちが経済的価値観よりも文化的価値観によって結束している政党へとしだいに変化してきた。ブレグジットはその傾向を加速させた。次の保守党党首は、自由市場を推進する立場から(皮肉にも)ヨーロッパ型の右派ポピュリストへと党をシフトさせていくことを余儀なくされるだろう。ジョンソン氏はその転換を実現することができそうだ。

馬鹿げた逆さまのピラミッド

風見鶏たるジョンソン氏は、アイデアや指導、指示を求めて、ダウニング街10番地と内閣にいる自分の周囲の人々にかつてないほどに依存するだろう。アドバイスや専門家に憤っているトランプ氏とは対照的に、ジョンソン氏は、自身が栄光を勝ち得るならば、喜んで他人に任せて仕事をさせる。主流の共和党員の大部分は、当初トランプ氏を認めず、彼のために働くことを否定したが、穏健な保守党党員は、内閣で旨味のあるポジションにありつける期待から、ジョンソン氏の旗印に群がっている。彼らの多くは、合意なきブレグジットは英国にとっては悪いことであり、したがって、おそらく保守党にとっても災難となることを認識している。ジョンソン氏が最終的に権力の座に就けば、彼のくだらない本能の手綱を握る役目が彼らに降りかかるだろう。彼らが失敗すれば、そう遠からぬうちに、ブレグジットという名のモンスターが、3人目の首相を噛み飽きて吐き出すだろう。

Facebookのグローバル通貨

The Economist の記事を訳出しました。
Weighing Libra in the balance: Facebook wants to create a global currency
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Libraを均衡させる
Facebookがグローバル通貨を作ろうとしている

どのような問題が起こりうるだろうか?

何年にもわたり、ウォール街の有力者たちは、シリコンバレーのテクノロジー大手が金融業界を揺さぶることを心配してきた。Facebookはひとつの方法を見つけたと考えている。彼らは2020年にデジタル通貨、Libraを発表する予定だ。このマーク・ザッカーバーグが代表を務める企業は、支払いサービスの普及に失敗している。そのプライバシーの乱用と言い逃れの習慣を考えると、彼らが他人の金を守るようには思えない。しかし、その会社を好きにせよ嫌いにせよ、その新しい計画には誰もが注目している。Libraの価値は主要通貨のバスケットと連動され、大量の取引を扱うことができ、28の他の大企業は、通貨の後ろ盾となる共同体に加入すると言っている。Facebookの24億人のユーザーがLibraを使って買い物や送金をした場合、それは世界最大の金融機関のひとつになる可能性がある。それは消費者革命の先駆けとなるだろうが、金融システムの安定性を低下させ、政府の経済的主権を弱める可能性もある。

新しい金融インフラはソーシャルメディアやチャットの顧客と結びついているので、Facebookの関心は自身の存続にある。それでも、金融のデジタル化は、何十億もの人々の生活をより簡単で安くすることを約束する。デジタル決済が普及している中国では、チャットアプリ内で友人や企業にタダ同然で送金している。アメリカでは毎年180億の小切手が署名されている。手数料はごく典型的な国境をまたいだ送金の5%におよぶ。そして、クレジットカード大手3社が、彼らが扱う世界規模の取引から約0.25%の上澄みを取っているが、これは、年間300億ドル以上の価値がある。

西側の金融を再設計するための多くの既存の試みは信頼できない。Bitcoinのような暗号通貨は、本質的な価値や中心的な監視がなく、詐欺の危険性があり、電気や計算処理能力を大量に消費する。PayPalやApple Payなどのデジタル決済システムでは、デビットカードやクレジットカードのシステムに対抗するのではなく、便乗している。2015年に開始されたFacebookの支払いサービスの実験は、銀行のデビットカードに基づいていた。それは失敗に終わった。

Libraはこれらの落とし穴を避けるように設計されている。それは、主に国債を保有している準備基金が完全に後ろ盾となるので、そのボラティリティは抑制される。その通貨は、匿名の取引記録が記録される中央集権型データベースを監督する独立機関によって管理される。そのシステムはオープンになるので、どの企業も自由に顧客がLibraを使用するデジタルウォレットを作ることができる。Uber、Vodafone、Spotifyは、主要メンバーになることを切望している大企業の一部だ。店舗や貿易商にLibraを受け入れさせるためのインセンティブを提供する配当金が用意されている。

好ましくないものは何か? Menlo Parkで18ヶ月にわたり準備を進めてきたザッカーバーグ氏のイニシアチブには2つの問題がある。第一に、それは金融システムの安定性を乱す可能性がある。アメリカ最大の銀行、JPMorgan Chaseは、5000万のデジタルクライアントを抱えている。Libraは優にその10倍の数に達することができる。西側のすべての預金者が自分たちの銀行貯蓄の10分の1をLibraに移動させれば、その準備資金は2兆ドル以上の価値となり、債券市場で大きな力となるだろう。突然、多くの預金がLibraに向けて出金するのを見た銀行は、彼らの支払能力に対するパニックに脆弱になり、融資を縮小しなければならなくなるだろう。そして国境を越えて巨額が流れる可能性が、新興国を脆弱な国際収支で心配させるだろう。

それが第二の脅威となる。Libraの統治だ。ジェームズ・ボンドの宿敵スペクターのように、当初はコンソーシアムによって管理されていたスイスの協会によって運営される予定だ。このソーシャルメディア企業は多くのLibraユーザーを供給し、結果的には覇権を握る可能性があるが、それはFacebookから独立した存在になるだろう。Facebookは規制当局と話していると言っているが、その仮定はLibraが最終的に政府や中央銀行を超越することができるということであるように思われる。Facebookはまた、ユーザーのデータを保護すると約束している。買い手危険負担であろう。

ザッカーバーグ氏はかつて速く行動して物事を破壊していた。今回、彼はゆっくり行動して事前の通知を行っている。しかし、だからといって、デジタルマネーは世界をより良い方向に変える可能性を秘めているが、それが多くの害をも及ぼしうることを隠すことにはならない。政府はソーシャルメディアを暴動させるがままにしている。Facebookは、政府がお金で同じ過ちを犯さないことを明らかにしようとしている。

トランプとマリオ・ドラギ ユーロ圏の金融政策を巡って

The Economist の記事を訳出しました。
The next economic battleground: Donald Trump takes aim at Mario Draghi over interest rates
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次の経済的な戦場
ドナルド・トランプは金利についてマリオ・ドラギに狙いを定める

アメリカの大統領はユーロ圏の金融政策が不公平であると訴える

マリオ・ドラギは、6月18日にポルトガルで開催された欧州中央銀行(ECB)の年次総会で講演を行うために立ち上がったとき、確かに反応を期待していた。しかし、おそらくそれは、世界で最も力を持つ男からのものではなかった。ドラギ氏は、ユーロ圏の経済が改善されなかった場合、ECBは金融緩和をする用意があると発表した。彼が席に戻った数時間後、ドナルド・トランプ大統領はツイッターで「彼らが米国と競争することを不当に容易にする」と彼を非難した。ヨーロッパの国々は「中国や他の国々と共に、何年にもわたってこれをやりおおせてきた」と彼は主張する。

この激怒は、トランプ氏が、彼が好んで振り回す貿易関税だけではなく、金利と為替レートを、経済戦争の武器とみなしていることを改めて示す。

ECBが金融緩和を実行するにあたって「かなりの余裕」があると宣言することによって、ドラギ氏は懐疑的な投資家に中央銀行がユーロ圏の低迷する経済を後押しすることができると納得させようとしていた。彼はしばらくの間は成功したようだ。投資家は今後数ヶ月の間にさらなる刺激策が講じられることを期待しているので、彼のコメントによってユーロはドルに対して0.5%下落した。(それはその日の残りの下落の大部分を占めていたのではあるが。)

市場の反応がトランプ氏を襲った。珍しいことに、彼は攻撃対象として「マリオD」を選び出した。しかし彼は以前、ユーロが弱いことについて不平を言っていた。昨年7月、彼は金利と為替レートを操作したことについてEUと中国の双方を非難した。中央銀行が自国の競争力を高めるために切り下げを行っているという非難は目新しいものではなく、これまではアメリカに対してぶつけられてきた。2010年にFRBが量的緩和プログラムを拡大したとき、多くの国が通貨を切り下げようと介入し、当時のブラジルの財務大臣であるGuido Mantegaに「通貨戦争」という用語を生み出させた。

トランプ氏のユーロ安、ひいてはドル高に対する批判は、戦略的なタイミングで行われたのかもしれない。次の2日間で連邦準備制度理事会は、金融政策について会談し、トランプ氏は金利の引き下げを何度も求めた。しかし、FRBは金利設定において独立しているため、ECBの決定はもちろんのこと、彼がその決定に直接影響を与えることはできない。ドラギ氏は通貨戦争を始めるかどうか尋ねられて、彼の唯一の目的は銀行のインフレ目標を達成することであると答えた。彼は「為替レートは目標にしていない」と言った。聴衆は拍手喝采を送った。

しかし、トランプ氏は、ヨーロッパとの貿易について新たな敵対的行為を始めることを決定できる。11月までに、自動車に対するアメリカの輸入関税が増額されるかどうかが決定されると見られている。トランプ氏がアメリカがECBに不当に扱われてきたと考えているのならば、そのことは彼によりそれを実行させたがらせるだろう。しかし、ECBの金融緩和はゼロサムゲームではない。より緩和された政策はより弱い為替レートによって部分的に機能するが、ユーロ圏の経済活性化の効果はアメリカのオートバイとバーボンへのより強い購買欲求をも生み出すはずだ。

トランプ氏がヨーロッパからの輸入品に関税をかける理由として為替レートを持ち出すのであれば、それは自滅を意味する可能性がある。ユーロ圏の経済はさらに打撃を受け、ドラギ氏はさらに刺激策を講じることを強いられ、ユーロを下落させるだろう。確かにECBは、アメリカの保護主義に対して企業が抱いている恐怖と世界貿易の減速が、すでにユーロ圏に悪影響を及ぼしていると考えている。皮肉なことに、トランプ氏こそが、そもそもドラギ氏が今日立ち上がった理由の一部だったのかもしれない。

アメリカの経済的な大量破壊兵器

The Economist の記事を訳出しました。
Weapons of mass disruption: America is deploying a new economic arsenal to assert its power
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大量破壊兵器
アメリカはその力を誇示するために新しい経済的な武器庫を配備している

それは逆効果であり危険をともなう

ドナルド・トランプがオーバルオフィスに到着したとき、彼はアメリカの力を回復することを約束した。彼の方法は経済的ツールの手当たり次第の武器化であることがわかった。いまや我々は、ルールや同盟国に制約されていないときに超大国が驚くべき力を投影できることをこの目で見ることができる。5月30日、大統領は、移民をめぐる論争の後、メキシコに法外な関税を課すと脅かした。市場は動揺し、メキシコの代表団は急いでワシントンに赴き平和を訴えた。1日後、インドの優遇取引規則は取り消された。いつもはマッチョな政府は喧嘩を堪え、「強い関係」を維持すると約束した。やがて中国は関税の高騰に直面し、テクノロジー最大手企業であるHuaweiは、アメリカの供給業者から切り離された。中国の独裁的指導者たちは激怒しているが、6月2日には彼らはまだ「対話と協議」を求めていると主張した。ヨーロッパの抗議に対して課されたイランへのより厳しい取引禁止措置は、その国の経済を締め付けている。

トランプ大統領はこの場面を満足して眺めているに違いない。もはや誰もアメリカを是認しない。敵や同胞は、アメリカが国益を保護するために経済的な武器庫を解き放つ準備ができていることを知っている。アメリカは新しい戦術—ポーカースタイルの瀬戸際政策—と、商品、データ、アイデア、そしてお金の国を越えた自由な流れを阻止するための、世界経済の中枢としての役割を不当に利用した新しい武器を活用している。21世紀の超大国のこの膨れ上がったビジョンは、一部の人にとっては魅力的に映るかもしれない。しかしそれは危機を引き起こす可能性があり、アメリカの最も価値のある資産—その正当性—を侵食している。

あなたはアメリカの影響力は11の空母、6,500の核弾頭、またはIMFにおける中核的役割から来ていると思うかもしれない。だが、アメリカはグローバリゼーションを支えるネットワークの中心的な結節点でもある。この一連の企業、アイデア、基準は、アメリカの力を反映し拡大する。それはサプライチェーンを通して取引される商品を含んではいるが、主には無形だ。アメリカは、世界の50%以上の、国境を越えた帯域幅、ベンチャーキャピタル、電話オペレーティングシステム、一流大学、基金運用資産を管理または提供している。通貨取引の約88%がドルを使用している。Visaカードを使用し、ドルで輸出の請求書を送り、Qualcommのチップを搭載した機器の隣で寝、Netflixを見、BlackRockが出資している会社に勤めるのが、世界中で当たり前になっている。

全体として、それが彼らを豊かにするので、外国人はこれらすべてを受け入れる。彼らはゲームのルールを決められないかもしれないが、アメリカの市場にアクセスし、アメリカの企業と一緒に公正な扱いを受ける。世界のGDPに占めるアメリカの割合は、1969年の38%から現在の24%に低下してはいるが、グローバリゼーションとテクノロジーによってネットワークはより強力になった。たとえその経済規模がアメリカに近づいているとしても、中国はまだ太刀打ちできない。

それにもかかわらず、トランプ氏と彼の顧問は、ラストベルトと貿易赤字を根拠に、世界の秩序はアメリカに不利になるように不正に操作されていると確信している。そして、1980年代の日本との最後の貿易紛争における比較的抑制された戦術を真似るのではなく、彼らは経済的ナショナリズムがどのように機能するかを再定義した。

第一に、関税は、特定の経済的譲歩を引き出すためのツールとして使用される代わりに、アメリカの貿易相手国との間に不穏な空気を作り出すために継続的に活用されている。対メキシコの新関税の目的—リオグランデ川を渡る移民の数を減らす—は、貿易とは何の関係もない。そして彼らは、わずか6か月前にホワイトハウスによって署名された自由貿易協定でありNAFTAの代わりとなるUSMCA(議会はまだそれを批准していないが)の精神に背いている。これらの大きな諍いに並行するのが、絶え間ないささいな議論の弾幕だ。当局は、外国の洗濯機とカナダの針葉樹材の輸入について論争している。

第二に、活動の範囲は、アメリカのネットワークを武器として使用することにより、物理的な商品を超えて拡大された。イランやベネズエラのようなあからさまな敵はより厳しい制裁に直面している—昨年はこれまでで最も多い1,500の人々、企業、船舶がリストに追加された。世界の他の国々は、テクノロジーと金融の新しい体制に直面している。大統領命令は、外国の敵対する企業によって開発された半導体およびソフトウェアの取引を禁止しており、昨年可決されたFIRRMAとして知られる法律は、シリコンバレーへの外国投資を監視している。企業がブラックリストに載っている場合、銀行は通常その取引を拒否し、ドル支払いのシステムから切り離す。昨年、ZTEとRusalの2社が即座に身をもって学んだように、それは致命傷を与える。

かつてはそのようなツールは戦時のために取っておかれた。支払いシステムの監視に使われる法的な技術は、アルカイダを追跡するために開発されたものだ。現在、「国家緊急事態」が表向きには宣言されている。当局は、脅威とは何かを定義する裁量を持っている。Huaweiのような特定の企業を徹底的に痛めつけることがよくあるが、他の企業も怯えている。あなたがグローバル企業を経営しているとして、あなたの中国のクライアントがブラックリストに載せられないと確信が持てるだろうか?

アメリカ経済への被害はこれまでのところ小さく見える。関税はメキシコ北部などの輸出拠点に苦痛を与えるが、トランプ氏が差し迫った関税をすべて課したとしても、輸入に課せられた税金はアメリカのGDPの約1%にすぎない。海外で低迷していたとしても、彼の自国での世論調査の評価は持ちこたえている。彼を取り巻く高官たちは、アメリカの経済ネットワークを武器にする実験は始まったばかりであると信じている。

実際、法案はますます増えている。アメリカは、中国に経済改革を促すための世界的な連帯を築くことができたかもしれないが、いまでは貴重な信用を浪費している。ブレグジット後のイギリスを含む、アメリカとの新たな貿易協定を求めている同盟国は、協定が署名された後に大統領のつぶやきがそれを水の泡にするかもしれないと心配することになるだろう。同じやり方の報復も始まった。中国は、外資系企業の独自のブラックリストの運用を始めた。そして、下手な失策が金融パニックを引き起こすリスクは高まっている。アメリカがニューヨークで1兆ドルの中国株取引を禁止したり、外国の銀行を切り捨てた場合を想像してみよう。

長い目で見れば、アメリカ主導のネットワークは脅威にさらされている。抵抗の兆候がある—アメリカの35のヨーロッパとアジアの軍事同盟のうち、Huaweiを禁止することに同意したのはこれまでのところ3カ国だけだ。ライバルとなるグローバルなインフラを構築しようとする努力は加速するだろう。中国は、外国人との商業紛争を裁定するために独自の裁判所を用意している。ヨーロッパは、イラン制裁を回避するために新しい支払いシステムの構築を試みている。中国、そして最終的にインドは、シリコンバレーの半導体への依存をやめることに取り組むだろう。アメリカのネットワークが自国に強大な力を与えるという点において、トランプ氏は正しい。それを置き換えるには、多くの時間と金がかかるだろう。しかし、それを悪用すれば、最終的にはそれを失うことになるはずだ。

イギリスの憲法という名の時限爆弾

The Economist の記事を訳出しました。
The next to blow: Britain’s constitutional time-bomb
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次の一撃
イギリスの憲法という名の時限爆弾

ブレグジットはすでに政治的な危機をもたらしている。遅かれ早かれそれは憲法上の危機をもたらすことにもなるだろう。

英国人は自分たちの「条文化されていない」憲法に誇りを持っている。アメリカ、フランス、ドイツはルールを白黒はっきり定める必要がある。議会発祥の地たる英国は、アイルランドの独立を除けば、クーデター、革命、内戦を免れ、300年以上にわたって民主主義を謳歌してきた。その政治は、主権のある議会の下で発展する一連の伝統、慣習および法律によって統治されている。その安定性によって、イギリスは、その統治方法が何世紀にもわたってコモン・センスにより適応されてきた強固な基盤の上に築かれていると世界を確信させた。

その見解は時代遅れだ。情け容赦のないブレグジットの論理はイギリスの地に憲法という名のダイナマイトを突き差した—そして、世論が分断された国における憲法改革の困難を考えると、ダイナマイトを無効化するためにできることはほとんどない。適応性があり堅固であると彼らが信頼していた憲法が実際は混乱、分裂および連合に対する脅威を増幅する可能性があることに英国人が遠からぬうちに気づく可能性は高い。

テリーザ・メイが保守党党首を辞任してから3日後の6月10日に、彼女の後継争いが正式に開始される。本命のボリス・ジョンソンを含む何人かの候補者は、EUが彼らに彼らが望むものを与えない限り(EUは望んでいないわけだが)、交渉なしで10月31日にEUから撤退すると誓っている。次の首相に、控えめに言っても、代表的とは言い難い人物を任命することになる保守党の124,000人のメンバーは、こうして国を真っ二つにした問題を自分たちで解決しようとするだろう。

さらに悪いことに、英国の主権を持つはずの議会は、それが国に重大な害を及ぼすであろうという理由で、まさしくそのような交渉なきブレグジットに反対票を投じた。交渉なきブレグジットをやめさせたり、強制的に可決させたりするための議会の策謀がより増えるだろう。憲法は、行政府と議会のどちらが勝るべきかについて明確に規定していない。どのように選択するかさえもはっきりしない。

この不確実性の背後にあるのは、英国の憲法が、無数の法律、慣習、および規則にまたがって散在する矛盾の寄せ集めであるという事実だ。今週号のブリーフィングが説明するように、これらは議会での投票によって、あるいは今週、議会の声が届くことを確実にするために議長に留まることを誓い論争を呼んだ庶民院の議長の権限によって簡単に修正することができる。英国議員のほとんどが、規則に則った上で素早くてもぞんざいに行動することが民主主義を台無しにする可能性があることに注意を払っていた時代があった。おそらくそれこそが、彼らがかつて自制を実践していた理由だ。しかし、自由主義的な民主主義が揺るぎないものと思われたこの数十年間、英国の指導者たちは注意を怠っていた。その代わりに、彼らは健忘症の発作を起こして、憲法の卸売りを再びでっち上げようとした。

トニー・ブレアとデイビッド・キャメロンの下、ウェストミンスター議会は、スコットランド、ウェールズと北アイルランドの議会に、そして国民投票を通じて直接その国民に、権限を与えた。これらの刷新は、多くの場合、十分に意味のあるものであり、それ自体望ましいものだった。しかし、憲法全体に対する影響については、誰も考えていなかった。

結果として生じた混乱の烙印が、すでにブレグジットには押されている。国民投票はEU離脱を支持したが、詳細については後回しにした。国民投票はブレグジットに信任を与えたが、ブレグジットが取りうる非常に多様な形のいずれかに与えられたわけではなかった。国民投票を尊重する義務と、国民一人ひとりの利益のために最善を尽くして行動するという議員の義務を、議員がどのように調和させるのかは明らかではない。他の国はその過ちを回避している。アイルランドも国民投票をしている。しかし、その憲法第46条はより明確だ。アイルランドの人々は、詳細が明らかな状態で法案がドイル・エアランを通過してはじめて修正に投票する。イギリスにはそこまでの思慮深さはなかった。

ブレグジットはそれ自体、連合の完全性を脅かすことによって、さらなる憲法上の混乱の種を蒔いている。欧州議会の選挙では、スコットランド国民党(SNP)が票を伸ばした。スコットランドは国民投票でEU残留に投票したので、SNPの指導者たちがイギリスから独立するためのさらなる信任を勝ち取ったと主張することは理解できる。それでも、保守党の党首候補の少なくとも1人は、さらなる国民投票を否定している。

離脱のためのプロセスが定められていないという理由だけで、連合を解散することは憲法上の悪夢になるだろう。スコットランドで2度目の国民投票を実施するだけでは不安が残る。ジョンソン氏は国境の北方では支持されていない。多くの英国の有権者が2回目のブレグジット国民投票を求めている。メイ氏は、ブレグジットが決議されるまで待つようSNPに伝えた。ジョンソン首相は、決意の固いスコットランドの運動に対して合法的に立場を維持することができるだろうか? それはわからない。

EUを去るという行為自体がまた、憲法に新たな疑問を投げかけるだろう。EU市民の法的権利を保証する基本権憲章は、もはや英国の裁判所の決定基準になることはないだろう。ドミニク・ラーブなどの、一部の保守党の党首候補は、これらの権利を組み込んだ国内法を廃止したいと考えている。議会が抑圧的な新しい法律を可決した場合、裁判所は文句を言うかもしれないが、彼らはそれを止めることができないだろう。ヨーロッパの裁判官を混乱させることを快く思わない有権者は、考え直し始めるかもしれない。英国の権利章典にお呼びがかかり、もう一つの思慮の浅い憲法刷新の発作の出番となる。

そしてそれは最後の心配につながる。イギリスのぼろぼろの、安易に修正された憲法は、ブレグジットについて論争して過ごした3年間が生み出した急進的な政治に対して脆弱だ。極左のジェレミー・コービンとその仲間は、イギリスに革命を起こすという彼らの野心についてこれ以上ないほど明確に打ち出している。彼らが経済と公共支出にフォーカスするだろうと単純に信じることはできないが、規則だけは例外だ。コービン氏の下の労働党政権—あるいは、その点で言えば、ポピュリストの保守党が率いる保守政権—は、議会でやりたいようにできる能力によってのみ制約を受けるだろう。労働党はすでに憲法制定会議を求めている。

ほとんどの英国人は、軽率にも待ち受ける試練に気がついていないように見える。おそらく彼らは、彼ら独自のやり方が常に安定につながると信じている。彼らの憲法の無限の柔軟性が妥協の余地を与え、その国をブレグジットという不毛の地から抜け出させることは確かに起こりうる。しかし、おそらくそれ以上に、それは他の多くが詐欺師と裏切り者であるという主張をもたらすだろう。

ブレグジットは長い間政治的危機にあった。いまそれは憲法上の危機になる運命にもあるようだ。それに対してイギリスは哀れなまでに準備が整っていない。

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