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Richard Burbageが演じたHamlet

Richard Burbageが演じたHamlet
発表要旨

古今東西、俳優なら誰でも一度は演じてみたいと思うに違いないHamlet。そのHamletを最初に演じたのは、初演当時、宮内大臣一座の花形として活躍していた、Richard Burbageである。彼の死に捧げられたエレジーには、’young Hamlet’を演じるBurbageの姿を二度と見ることができなくなったことの不幸が嘆かれている。その頃、Burbage以外にHamletを演じる役者はいなかった。Hamletと言えば、Burbageだった。つまり、現代において’Indiana Jones’がそれを演じたHarrison Fordの代名詞であるのと同じように、「若きハムレット」は、その生涯を通じてRichard Burbageの代名詞だったのだ。

Burbageが、当代きっての悲劇役者として名声を博していたのと時を同じくして、Shakespeareは、座付き作家として、Burbageが出演する芝居の台本を書き、評判を得ていた。だが、Shakespeareの活動は、一座付き作家に留まらず、株主として劇場の経営にも及んでいた。自分の書いた芝居が当たるか当たらないかは、経営者Shakespeareにとって剣呑な問題だった。そのため、Shakespeareの創作活動は、劇場が抱える実際的な問題に左右されていた筈である。

批評家Lucas Erneは、著書Shakespeare as Literary Dramatist (2003)の中で、Shakespeareの戯曲は、上演にとって必要以上の長さを持っているものが多いので、劇場の観客だけではなく、文学作品として出版されることを意識して書かれたのだと論じている。彼の議論は、にわかに注目を集めることになり、この問題に関して、今年の7月に、イギリスのランカスター大学で、Gary TaylorやStanley Wellsを交えて、シンポジウムが開かれた。本発表で取り上げるHamletは、Shakespeare全作中、最も長い作品であり、カットされることなく上演されることは、まず無い。まさに、「必要以上に」長い作品と言えよう。

だが、私は、Erneのように、Hamletを、出版されることを意識して書かれたものだとは考えない。私は、実際に出版を意識して書き、自らの手で選集を刊行したBen Jonsonと区別して呼ばれているように、Shakespeareを、’man of the theatre’として、つまり、一人の舞台人として考えることにこだわりたい。Shakespeareは、当時の演劇界や劇場の状況を、そして観客や役者たちのことを考えながら、舞台作品として、Hamletを執筆したのであると。本発表は、そのことを、Hamletを演じたRichard Burbageに焦点を当てて、考察するものである。

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