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シェイクスピア・セミナー ハンドアウト

シェイクスピア・セミナー

発表要旨

復讐者の狂気
-『ハムレット』を中心に-

復讐劇の主人公たちは、何故、狂気を身に纏わなくてはならないのだろう。アリストテレスによれば、悲劇とは「一定の大きさをそなえ完結した「高貴な」行為の再現(ミメーシス)」でなくてはならない。復讐劇においては、この「高貴な」という箇所が問題を孕むことになる。西欧において復讐者は、犯罪者と同義である。何故なら、キリスト教では復讐は認められないからだ。復讐劇の主人公は、「高貴な」状態を保ったまま復讐という悪を成さねばならないという、二律背反した課題を背負うことになる。復讐劇の主人公が伝統的に狂気を纏ってきたのは、復讐者が悲劇の主人公に相応しい「高貴さ」を備えている必要があったからではないだろうか。つまり、気が狂っていれば、それは本人の理性とは関係のない行為ということになるので、悪の行為が容認される素地を作ることになるのだ。復讐者を狂気に陥るほど追い詰め、実際に狂気の側に踏み込む瞬間を設けることで、復讐という非道徳的な行為を多少なりとも正当化するために「狂気」が機能するのである。そして、そのことが結果的に、復讐劇を、アリストテレスが理想とする悲劇の必要条件であるミメーシスに近付ける役割を果たすのだ。

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