今週号のThe Economistから記事を訳出しました。
インドで、汚職役人へ賄賂を渡すことに抵抗する手段として、ゼロ・ルピー紙幣が印刷されたというニュースです。
ユーモアのある、賢い戦い方ですね。
格好いい。
それにしても、おばあさんがゼロ・ルピー紙幣を差し出すだけで、お役人が途端に態度を豹変させて、お茶を出し、お金まで貸してくれるなんて、なんだか微笑ましい話ですね。
原文はこちらから読めます。
The Economist Jan 28th 2010
Fighting corruption in India
A zero contribution
インドにおける汚職との戦い
ゼロの寄進
小さな汚職に抗うための奇抜な方法
ゼロサム(訳注・合計がゼロになる)・ゲームとは、ひとりのプレイヤーの利益が、他のプレイヤーの損失と正確に一致するゲームのことをいう。インドでは、地方のある非政府組織が、すべての人の暮らし向きを改善することを願って、新しいゼロサムを発明した。ゼロ・ルピー紙幣である。
その狙いはいったい何か。その紙幣は、法定通貨ではない。それは、50ルピー紙幣と同じ色をした、ガンディーの肖像が描かれた単なる一片の紙にすぎず、何の価値もない。その目的は、腐敗した役人を辱めて、賄賂を要求しないようにさせることである。

そのアイデアは、メリーランド大学からインドに帰国した折に際限のない恐喝に悩まされた経験を持つ、国外に在住するあるインド人の物理学教授が思いついた。彼はその紙幣を、しつこくせがむ役人に、礼儀正しく断る手段として渡したのだ。第五の柱と呼ばれるNGOの代表、ヴィジャイ・アナンドは、それはもっと大きな規模で効力を発揮するのではないかと考えた。彼は、汚職への反感をかき立てるため、25,000枚のゼロ・ルピー紙幣を印刷し公表した。紙幣は評判になった。彼の慈善団体は、2007年から現在まで、100万枚をばらまいた。
タミル・ナードゥ州のある役人は、その紙幣を受け取って度肝を抜かれ、ある村に電気を供給することの見返りとして要求した賄賂を全額、返還した。他のある役人は、立ち上がると、彼がお金をむしり取ろうとしていた老女にお茶を勧め、さらにはお金を貸すことを承認したので、彼女の孫娘は大学に行くことができた。
腐敗した役人たちは反抗に直面することがまれであり、それゆえ実際に直面したことで怖くなり、その紙幣が効力を発揮したのだと、アナンド氏は考えている。しかし、普通の人々は、もっと反抗したいと思っているのだ。何故なら、その紙幣にだって後ろ盾となる組織はあるのに、彼らは自分たちの組織を自分たちのものとして実感できないからだ。このような単純なアイデアがいつも機能するとは限らない。ひとたびインド政府が汚職裁判の被告となっている役人たちの名前をインターネット上に掲載すれば、そのリストは、誰に賄賂を渡したらよいかを教えてくれる便利なガイドとなり果ててしまう。だが、社会規範を変えることこそが小さな汚職と戦うための鍵であり、この紙幣はその戦いの進行を助けていると、世界銀行のナガノ・フミコは語る。それは無価値だが、無意味ではないのだ。
| 2010/02/06
| The Economist, Translation
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最新のThe Economistから記事を訳出。
原文はこちらから読めます。
The Economist January 28th 2010
Tablet computing
The book of Jobs
タブレット型コンピュータ
ジョブズの福音
次々と産業を改革してきたアップルが、
今度は、3つの産業を一度に変えようとしている
アップルは、常に、世界でもっともイノヴェイティヴな企業として評価されているが、その創意には、ある決まった型がある。アップルは、まったく新しい種類の製品を開発するというよりは、むしろ、すでにある不完全なアイデアを使って、それを適切に生かすにはどうしたらよいのかということを世界中に示すことに優れているのだ。アップルは、スティーヴ・ジョブズという移り気で、先見の明のあるボスの下、すでにこれを三度、成し遂げている。1984年には、アップルはマッキントッシュをリリースした。マッキントッシュは、視覚的にマウスで操作する最初のコンピュータというわけではなかったが、アップルが、そのコンセプトを使いやすい製品の形に落とし込んだのだ。そして2001年には、iPodが登場した。iPodは、最初のデジタル音楽プレイヤーというわけではなかったが、シンプルかつエレガントだったので、デジタル音楽を主流にした。2007年には、アップルは引き続きiPhoneをリリースした。iPhoneは最初のスマート・フォンというわけではなかったが、アップルが、他の携帯メーカーが失敗していた、モバイルでのインターネット・アクセスとソフトウェアのダウンロードを、大衆向きの市場に乗せることに成功したのだ。
ライバル企業がアップルの手法を真似ようと急ぐ中、音楽と電話産業はその姿を変えた。そして今、ジョブズ氏は、四度、同じ手を使おうとしている。1月27日、彼は自社最新の製品、iPadを発表した。iPadは、10インチのタッチ・スクリーンを装備した薄いタブレット型の機器で、3月下旬から499-829ドル(約4万5千円~7万5千円)で販売される。開発中の数年間、iPadについてのオンライン上での推測は熱狂的な話題となり、ここ数ヶ月は、時に狂信的といえるまでになっていた。ブログ界の懐疑派は、冗談めかして、神のタブレットとまで呼ぶほどだ。
アップル信者の熱狂は行きすぎているだろうが、しかし、ジョブズ氏の業績は、彼が市場に祝福を与える時、それは必ず成功することを示している。そればかりか、タブレット型コンピュータは、ひとつの産業を変えるだけでなく、3つの産業、コンピュータ産業、電話産業、メディア産業を変えることをも約束しているのだ。
3つのうち、最初のふたつのビジネスに関わる企業は、iPadの登場を不安げに見守っている。なぜなら、アップルの歴史が、iPadが手強い競争相手になることを証明しているからだ。対照的に、メディア産業はiPadを心から歓迎している。メディア企業にとっては、ウェブの至る所にはびこる違法コピー、無料コンテンツ、ばらまかれた広告といったものが、インターネットを困難な環境にしてきた。彼らは、アマゾンが作った電子書籍リーダー、キンドルに熱いまなざしを注いでいる。キンドルは、書籍の価格を引き下げ、しかも広告を掲載することはできない。メディア企業は、この新しい機器が、人々に、移動中にデジタル版の書籍や新聞、雑誌を読むように促すことで、彼らを生きながらえさせてくれる結果になることを願っている。確かに、アップルがこの新しい市場で、すでにデジタル音楽でそうなったように、大きな影響力を握ることになることへの懸念はある。しかし、アップルによって独占されているにしても、開かれた新しい市場があることは、市場が縮小していくより、あるいは市場が全くないよりマシだ。

タブレットは肌身離さず
これまで、実業家を狙ったタブレット型コンピュータが上手くいった試しはなかった。マイクロソフトは、何年もの間それを売り込んだが、ほとんど成功しなかった。アップル自身、ペンを使用するタブレット型コンピュータ、ニュートンを1993年にリリースしたが、失敗に終わった。これまでのところ、キンドルはなかなか健闘しており、ヌーク、スキフ、キューといった、同じくらい馬鹿げた名前を持つ後続機を生んでいる。一方、iPhoneやiPodタッチといったアップルのポケット・サイズのタッチ・スクリーン型機器は、音楽やビデオのプレイヤーとして、あるいは、携帯型ゲーム機として軌道に乗った。
その本質において、iPadは、ステロイドを打たれた巨大型iPhoneである。その大きなスクリーンは、iPadを、電子書籍リーダーとして、あるいはビデオ・プレイヤーとして、十分魅力のあるものにしている。しかし、iPadはまた、多くのゲームや、その他のソフトウェアを、iPhoneから引き継ぐこともできる。アップルは、iPhoneと同様に、多くの人々がラップトップの代わりとしてiPadを使うようになることを望んでいるのだ。アップルが間違っていなければ、iPadは、電話より大型で、ラップトップよりは小型の、あるいは、電子書籍リーダーや音楽やビデオのプレイヤーの二倍ほどの大きさの機器の、新しい市場を開拓できるかも知れない。すでに、異業種の産業がこの市場に群がってきている。携帯電話メーカーは、ネットブックとして知られる小型ラップトップをリリースし、コンピュータ・メーカーは、スマート・フォンへ移行しつつある。携帯電話やラップトップに移行しつつあるグーグルや、キンドルを持つアマゾンのような新参者もまた、争いに加わっていく。アマゾンはiPhoneスタイルのキンドル向け「アプリ・ストア」の計画を発表したばかりで、それが実現されれば、キンドルはただの電子書籍リーダー以上の存在になるだろう。
過去が参考になるとすれば、アップルのこの分野への参入は、電子機器メーカー間に苛烈な競争を引き起こすことになるだけでなく、かつては電子書籍に慎重だった消費者や出版社に決断を促し、この生まれたばかりのテクノロジーの導入に拍車をかけることになるだろう。マーケット・リサーチ会社、iSuppliによると、2008年には100万ドル(約9千万円)、2009年には500万ドル(約4億5千万円)だった電子書籍リーダーの売り上げは、今年、1200万ドル(約10億8千万円)に達すると見込まれている。
スクリーンを握りしめろ
タブレットの普及は、果たして、苦戦を強いられているメディア企業を救うことになるだろうか? 残念ながら、ならないだろう。いくつかの企業、例えばメトロポリタン新聞のような企業は、恐らく、専門のウェブサイトに移行しつつある求人広告に頼ることを宿命づけられている。一方で、他の企業はすでに先を行っている。タブレットは高価だ。それゆえ、メディア産業を変革するのに十分なだけ普及するまでに、何年もかかる。理論上は、ある新聞が読者に2年間のデジタル購読を契約させ、同時に、タブレット一台分のコストを負担する、といったようなことは可能だろう。しかし、このような負担は非常に高くつくだろうし、紙にこだわる読者のために、高価な印刷機を稼働し続けなければならない。
タブレットは弱小メディア企業を救わないかも知れない。しかし、強いメディア企業に活力を与えることにはなるだろう。ウェブでは難しいことが証明されたコンテンツへの課金は、よりやりやすくなる。すでに人々は、キンドルで(本紙The Economistを含めた)新聞や雑誌を読むことにお金を支払う準備が出来ている。iPadは、その色鮮やかな画面と、アップルのオンライン・ストアとの連携により、書籍や新聞、雑誌のダウンロードを、音楽のダウンロードと同じくらいまで、容易かつ一般的にするだろう。何より重要なのは、iPadが、アメリカの雑誌が特に依存している広告を受け入れることになるということだ。最終的にタブレットは、デジタル配信への大きな転換をもたらすことになるだろう。そして、新聞や本の出版社に、印刷機を止めることで、コストを削減させることになるだろう。
もしもジョブズ氏が、この新たな素晴らしい機器によって新たな驚くべき企てを成し遂げて、製品が本格的に普及すれば、デジタル革命がメディア企業にもたらす利益は、そのコストをすぐに回収するだろう。しかし、いくつかのメディア企業が滅びつつあっても、彼らに新しい機器が降臨することはないだろう。いかに神のタブレットといえども、奇跡は起こせないのだ。
| 2010/01/31
| The Economist, Translation
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今週号のThe Economist から、記事を訳出。
昨年クリスマスの航空機爆破未遂事件以降、アメリカでテロリズムに強硬な態度で臨むべきという意見がいっそうの高まりを見せ、平和主義路線を打ち出してきたオバマ大統領の態度が不安定になってきている。
アメリカでは、大勢がオバマ大統領に戦争をするようにけしかける。
共和党は政権を取り戻したくて、テロリズムには強硬な態度で臨むべきだと大統領を非難する。
軍部は戦争をするのが仕事なので、予算が欲しくてパキスタン攻撃を提案する。
軍需産業で食べている人たちが五万といて、武器を作り続けなければその家族が路頭に迷う。
そしてTV局は視聴率が欲しくて、テロの恐怖を煽り続ける。
オバマ大統領には逃げ場がない。
このような状況にあって、果たして平和主義路線を維持できるだろうか。
しかし、’double agent’ 「二重スパイ」が、’handler’ 「(スパイへの)指令者」を自分もろとも吹き飛ばすなんて、まるで米TVドラマ『エイリアス』の世界のようだ。
原文はこちらから読めます。
The Economist January 9th-15th 2010
Barack Obama and terrorism
Another war president, after all
バラク・オバマとテロリズム
結局、もう一人の戦争好きの大統領に過ぎないのか
ワシントンDC
クリスマス「混乱」後における、ホワイトハウスの新たな緊急課題
「あなたは戦争に興味がないかもしれないが、戦争があなたに興味があるのだ」と、レフ・トロツキーは言ったという。クリスマス・イヴにバラク・オバマは、上院が保険法案を通すのを見届けたい思いにかられながら、ハワイでの遅れた休暇に出発した。しかし、ウマル・ファルーク・ アブドルムタラブの失敗に終わったクリスマス爆破計画のおかげで、大統領は今週、より差し迫った緊急課題を携えてワシントンに戻ることになった。その緊急課題とは、アメリカ人の命を危険にさらした、彼がいうところの壊れた諜報システムを補修することと、共和党側の、オバマ氏はテロリズムに対抗する手段として戦争を「採用」しないだろうという主張に反論することだった。
1月5日、見るからに腹を立てた様子のオバマ氏は、彼の防衛チームとの会談から姿を現し、パンツの中に爆弾を忍ばせたアブドルムタラブ氏にデトロイト行きの飛行機に搭乗することを許したことは、諜報機関による情報収集に落ち度があったわけではなかったと述べた。アメリカは、その計画を発見するのに「十分な情報」を入手していたが、「それらの点と点を結びつけるのに失敗した」のであると。これは、「受け入れられるものではなく、耐えられるものでもない」と彼は述べた。会談の場では、彼はさらに不機嫌だったようで、「混乱は災難になり得た」と非難した。
オバマ氏は、すでにたくさんの新たな処置を指示し、それ以上のことが約束されている。(アブドゥルムタラブ氏の名前が記載されていなかった)「渡航禁止」リストは拡充された。14カ国からの入国者はさらなる選別に直面することになるだろう。空港にはより多くの爆発物探知チームが配属され、旅客機にはより多くの航空警官が搭乗するだろう。さらに、オバマ氏は、抑留者をさらにグアンタナモ刑務所からイエメンに返還する計画を先送りにした。アルカイダは、イエメンでアブドルムタラブ氏に爆弾を持たせたと考えられるため、抑留者のうちの何人かがアルカイダに参加、もしくは復帰することを、オバマ氏が恐れたからだ。
これらの処置をもってしても、クリスマスの陰謀事件を、オバマ氏がテロリズムに対して十分に真剣に対処していないことの現れと考える人々を黙らせるようには思えない。ディック・チェイニーはオバマ氏を、彼の主たる目標に戦争が「合致しない」からといって、アメリカが戦争状態にあることを否定したとして非難した。前副大統領チェイニーは主たる目標を、アメリカの「社会変革」と捉えている。オバマ陣営は、共和党政府による「好戦的なレトリックが支配した七年間」が、アルカイダの脅威を減じることに失敗したと反駁した。(しかしオバマ氏は、アメリカは暴力的な過激派と「戦争状態」にあると実際に口にしていたと指摘し、曖昧な立場を取って上手く立ち回った。)
共和党がオバマ氏を、テロリズムに寛大だと印象づけたがるのは驚くに値しない。世論調査は、共和党が、いつでも耳を傾けてくれる聴衆を獲得していることを示唆している。なぜなら、オバマ氏のテロリズムについての論調と政策の変化は、アメリカ国民の不安を和らげる結果になってはいないからだ(グラフを参照)。さらに、国土安全保障長官ジャネット・ナポリターノのクリスマス後の哀れな反応(彼女は「システムは機能した」と主張した)以降、彼は政府の主張を明確にしたとはいえ、いくつかの政策にはまだ大いに議論の余地が残されている。

例えば、彼は、イエメンへの抑留者の解放を先送りにするにも関わらず、依然としてできるだけ早くグアンタナモを封鎖したいと考えている。大部分の共和党員はすでに、9.11テロの黒幕と伝えられるハリド・シェイク・モハメドを裁判にかけるというオバマ氏の決定に激怒している。いまや、アブドルムタラブは、敵方の戦闘員として激しい尋問に直面するのではなく、黙秘権を与えられた犯罪者として扱われている。大統領のテロリズムに関する主任顧問、ジョン・ブレナンは、自爆テロ犯になりたいと願うような人間が司法取引の見返りとして秘密を打ち明けるかもしれない可能性を示したことで笑いものになった。
一方、12月30日にはアフガニスタン、ホスト州の基地で、ヨルダン人の二重スパイが、彼のCIAの指令者たちを自分もろとも吹き飛ばした。このうち八人の犠牲者は、パキスタンのアルカイダに対するアメリカの無人攻撃を指揮したグループのメンバーだった。この攻撃は、オバマ氏の監視下に入って、いっそう頻繁かつ苛烈になってきている。このことは、アルカイダは無慈悲であるのと同じくらい臨機の才がある、ということを想起させただけでなく、健康保険を改革せんとするオバマ氏は戦争好きの大統領でもあり、戦争に勝利できるとアメリカ国民にまだ証明できていないということをも陰鬱に想起させた。
| 2010/01/15
| The Economist, Translation
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今週号の The Economist から、記事をひとつ訳出してみました。
音楽ソフトや映画ソフトのオンライン・ダウンロードの価格が下がれば、CDとDVDは姿を消し、レンタル店も消滅するでしょう。
その日はそう遠くないかも知れません。
原文はこちらから読めます。
ハリウッドとインターネット
近日公開
映画産業が他の産業の過ちから学ぼうとしている
ハリウッドはインターネットに遅れてやってきた。莫大なファイル・サイズにより違法デジタル・コピーから長年守られてきたため、ハリウッドは、音楽業界のようには、オンラインの販売モデルを発展させることを強いられなかった。また、ハリウッドは、新聞メディアのインターネット上での苦戦を見てきて、同じことを試したいとは思わなかった。しかし、今週、ハリウッドはついに一歩を踏み出し、オンライン上で映画とテレビ番組を売るため、二つのシステムに探りを入れた。その新規構想は、他のメディアの過ちから学んだ教訓を生かして、良く考え抜かれている。しかし一方、それはあまりに遅かったともいえるだろう。
アダムズ・メディア・リサーチによると、アメリカでは昨年、映画の合法ダウンロードは2.5億ドル(250億円)に上った。しかし、多くの国々では、まだ正統なマーケットは存在していない。この事実を気にかける者はいなかったが、しかし、過去10年でハリウッドの富を復興させた銀色の円盤、DVDの売り上げが伸び悩んでいることになると、話は別だ。DVDの売り上げは、2004年には120億ドル(1兆2000億円)だったのが、2009年には87億ドル(8700億円)にまで落ち込んだ(グラフを参照)。どうやら消費者は、ハリウッドにとってはDVDほど利益にならない、レンタルを見直し始めたようだ。郵便配達を使ったレンタルがあるし、レッドボックス社が所有するレンタル店も急増している。

そこで、オンライン販売に熱心になるというわけだ。大手映画会社六つのうち五つを含むテクノロジー企業と販売店の共同体、デジタル・エンターテインメント・コンテント・エコシステム(DECE)は、今週、デジタル映画のフォーマットに合意し、購入状況を把握するための組織を指名した。消費者は、一度、映画を買ったら、様々な機械で再生できるようになる。映画のデータが遠隔サーバ上に蓄積されることによって、消費者は、映画のデータを機械から機械へ移行する必要がなくなるのだ。
DECEには距離を置くディズニーは、キーチェストという同様の手法に手を付けている。このDECEの初期構想は、アップルが音楽で成し遂げ、いまアマゾンが電子ブックを脅かしているのと同じことを、ひとつの企業が映画に対してするのを阻止することを狙っている。アップルやアマゾンといった企業は、マーケットで大きなリードを取ることによって、さらにはコンテンツを自社の機械であるiPodやKindleに結びつけることによって、メディア企業に条件を出せるようになった。DECEの代表兼ソニー社員であるミッチ・シンガーは、そういった閉じたシステムではなく、自由競争と技術刷新を促進する開かれたフォーマットであるCDやDVDにより近いものを生み出したいと考えている。
その新しい戦略におけるひとつの問題は、アップルが絡んでいないということだ。アップルはすでに、映画やテレビのダウンロードを、iTunesストアを通じて提供している。そして、もう一つ困難となるだろうことは、手に触れることのできない「クラウド上」のものにお金を払うように、消費者を納得させることだ。オンライン上の映画の値段を低く設定し過ぎると、映画会社はDVDが脅威にさらされることに対して反乱を起こすだろうし、あまりに高く設定しすぎると、人々は、レンタルか、もしくは映画の違法ダウンロードを続けることになるだろう。
| 2010/01/12
| The Economist, Translation
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