バラク・オバマとテロリズム

今週号のThe Economist から、記事を訳出。

昨年クリスマスの航空機爆破未遂事件以降、アメリカでテロリズムに強硬な態度で臨むべきという意見がいっそうの高まりを見せ、平和主義路線を打ち出してきたオバマ大統領の態度が不安定になってきている。

アメリカでは、大勢がオバマ大統領に戦争をするようにけしかける。
共和党は政権を取り戻したくて、テロリズムには強硬な態度で臨むべきだと大統領を非難する。
軍部は戦争をするのが仕事なので、予算が欲しくてパキスタン攻撃を提案する。
軍需産業で食べている人たちが五万といて、武器を作り続けなければその家族が路頭に迷う。
そしてTV局は視聴率が欲しくて、テロの恐怖を煽り続ける。

オバマ大統領には逃げ場がない。
このような状況にあって、果たして平和主義路線を維持できるだろうか。

しかし、’double agent’ 「二重スパイ」が、’handler’ 「(スパイへの)指令者」を自分もろとも吹き飛ばすなんて、まるで米TVドラマ『エイリアス』の世界のようだ。

原文はこちらから読めます。


The Economist January 9th-15th 2010
Barack Obama and terrorism
Another war president, after all

バラク・オバマとテロリズム
結局、もう一人の戦争好きの大統領に過ぎないのか

ワシントンDC

クリスマス「混乱」後における、ホワイトハウスの新たな緊急課題

 「あなたは戦争に興味がないかもしれないが、戦争があなたに興味があるのだ」と、レフ・トロツキーは言ったという。クリスマス・イヴにバラク・オバマは、上院が保険法案を通すのを見届けたい思いにかられながら、ハワイでの遅れた休暇に出発した。しかし、ウマル・ファルーク・ アブドルムタラブの失敗に終わったクリスマス爆破計画のおかげで、大統領は今週、より差し迫った緊急課題を携えてワシントンに戻ることになった。その緊急課題とは、アメリカ人の命を危険にさらした、彼がいうところの壊れた諜報システムを補修することと、共和党側の、オバマ氏はテロリズムに対抗する手段として戦争を「採用」しないだろうという主張に反論することだった。

 1月5日、見るからに腹を立てた様子のオバマ氏は、彼の防衛チームとの会談から姿を現し、パンツの中に爆弾を忍ばせたアブドルムタラブ氏にデトロイト行きの飛行機に搭乗することを許したことは、諜報機関による情報収集に落ち度があったわけではなかったと述べた。アメリカは、その計画を発見するのに「十分な情報」を入手していたが、「それらの点と点を結びつけるのに失敗した」のであると。これは、「受け入れられるものではなく、耐えられるものでもない」と彼は述べた。会談の場では、彼はさらに不機嫌だったようで、「混乱は災難になり得た」と非難した。

 オバマ氏は、すでにたくさんの新たな処置を指示し、それ以上のことが約束されている。(アブドゥルムタラブ氏の名前が記載されていなかった)「渡航禁止」リストは拡充された。14カ国からの入国者はさらなる選別に直面することになるだろう。空港にはより多くの爆発物探知チームが配属され、旅客機にはより多くの航空警官が搭乗するだろう。さらに、オバマ氏は、抑留者をさらにグアンタナモ刑務所からイエメンに返還する計画を先送りにした。アルカイダは、イエメンでアブドルムタラブ氏に爆弾を持たせたと考えられるため、抑留者のうちの何人かがアルカイダに参加、もしくは復帰することを、オバマ氏が恐れたからだ。

 これらの処置をもってしても、クリスマスの陰謀事件を、オバマ氏がテロリズムに対して十分に真剣に対処していないことの現れと考える人々を黙らせるようには思えない。ディック・チェイニーはオバマ氏を、彼の主たる目標に戦争が「合致しない」からといって、アメリカが戦争状態にあることを否定したとして非難した。前副大統領チェイニーは主たる目標を、アメリカの「社会変革」と捉えている。オバマ陣営は、共和党政府による「好戦的なレトリックが支配した七年間」が、アルカイダの脅威を減じることに失敗したと反駁した。(しかしオバマ氏は、アメリカは暴力的な過激派と「戦争状態」にあると実際に口にしていたと指摘し、曖昧な立場を取って上手く立ち回った。)

 共和党がオバマ氏を、テロリズムに寛大だと印象づけたがるのは驚くに値しない。世論調査は、共和党が、いつでも耳を傾けてくれる聴衆を獲得していることを示唆している。なぜなら、オバマ氏のテロリズムについての論調と政策の変化は、アメリカ国民の不安を和らげる結果になってはいないからだ(グラフを参照)。さらに、国土安全保障長官ジャネット・ナポリターノのクリスマス後の哀れな反応(彼女は「システムは機能した」と主張した)以降、彼は政府の主張を明確にしたとはいえ、いくつかの政策にはまだ大いに議論の余地が残されている。

CUS717

 例えば、彼は、イエメンへの抑留者の解放を先送りにするにも関わらず、依然としてできるだけ早くグアンタナモを封鎖したいと考えている。大部分の共和党員はすでに、9.11テロの黒幕と伝えられるハリド・シェイク・モハメドを裁判にかけるというオバマ氏の決定に激怒している。いまや、アブドルムタラブは、敵方の戦闘員として激しい尋問に直面するのではなく、黙秘権を与えられた犯罪者として扱われている。大統領のテロリズムに関する主任顧問、ジョン・ブレナンは、自爆テロ犯になりたいと願うような人間が司法取引の見返りとして秘密を打ち明けるかもしれない可能性を示したことで笑いものになった。

 一方、12月30日にはアフガニスタン、ホスト州の基地で、ヨルダン人の二重スパイが、彼のCIAの指令者たちを自分もろとも吹き飛ばした。このうち八人の犠牲者は、パキスタンのアルカイダに対するアメリカの無人攻撃を指揮したグループのメンバーだった。この攻撃は、オバマ氏の監視下に入って、いっそう頻繁かつ苛烈になってきている。このことは、アルカイダは無慈悲であるのと同じくらい臨機の才がある、ということを想起させただけでなく、健康保険を改革せんとするオバマ氏は戦争好きの大統領でもあり、戦争に勝利できるとアメリカ国民にまだ証明できていないということをも陰鬱に想起させた。

ハリウッドとインターネット

今週号の The Economist から、記事をひとつ訳出してみました。

音楽ソフトや映画ソフトのオンライン・ダウンロードの価格が下がれば、CDとDVDは姿を消し、レンタル店も消滅するでしょう。
その日はそう遠くないかも知れません。

原文はこちらから読めます。


ハリウッドとインターネット
近日公開

映画産業が他の産業の過ちから学ぼうとしている

 ハリウッドはインターネットに遅れてやってきた。莫大なファイル・サイズにより違法デジタル・コピーから長年守られてきたため、ハリウッドは、音楽業界のようには、オンラインの販売モデルを発展させることを強いられなかった。また、ハリウッドは、新聞メディアのインターネット上での苦戦を見てきて、同じことを試したいとは思わなかった。しかし、今週、ハリウッドはついに一歩を踏み出し、オンライン上で映画とテレビ番組を売るため、二つのシステムに探りを入れた。その新規構想は、他のメディアの過ちから学んだ教訓を生かして、良く考え抜かれている。しかし一方、それはあまりに遅かったともいえるだろう。

 アダムズ・メディア・リサーチによると、アメリカでは昨年、映画の合法ダウンロードは2.5億ドル(250億円)に上った。しかし、多くの国々では、まだ正統なマーケットは存在していない。この事実を気にかける者はいなかったが、しかし、過去10年でハリウッドの富を復興させた銀色の円盤、DVDの売り上げが伸び悩んでいることになると、話は別だ。DVDの売り上げは、2004年には120億ドル(1兆2000億円)だったのが、2009年には87億ドル(8700億円)にまで落ち込んだ(グラフを参照)。どうやら消費者は、ハリウッドにとってはDVDほど利益にならない、レンタルを見直し始めたようだ。郵便配達を使ったレンタルがあるし、レッドボックス社が所有するレンタル店も急増している。

CWB704

 そこで、オンライン販売に熱心になるというわけだ。大手映画会社六つのうち五つを含むテクノロジー企業と販売店の共同体、デジタル・エンターテインメント・コンテント・エコシステム(DECE)は、今週、デジタル映画のフォーマットに合意し、購入状況を把握するための組織を指名した。消費者は、一度、映画を買ったら、様々な機械で再生できるようになる。映画のデータが遠隔サーバ上に蓄積されることによって、消費者は、映画のデータを機械から機械へ移行する必要がなくなるのだ。

 DECEには距離を置くディズニーは、キーチェストという同様の手法に手を付けている。このDECEの初期構想は、アップルが音楽で成し遂げ、いまアマゾンが電子ブックを脅かしているのと同じことを、ひとつの企業が映画に対してするのを阻止することを狙っている。アップルやアマゾンといった企業は、マーケットで大きなリードを取ることによって、さらにはコンテンツを自社の機械であるiPodやKindleに結びつけることによって、メディア企業に条件を出せるようになった。DECEの代表兼ソニー社員であるミッチ・シンガーは、そういった閉じたシステムではなく、自由競争と技術刷新を促進する開かれたフォーマットであるCDやDVDにより近いものを生み出したいと考えている。

 その新しい戦略におけるひとつの問題は、アップルが絡んでいないということだ。アップルはすでに、映画やテレビのダウンロードを、iTunesストアを通じて提供している。そして、もう一つ困難となるだろうことは、手に触れることのできない「クラウド上」のものにお金を払うように、消費者を納得させることだ。オンライン上の映画の値段を低く設定し過ぎると、映画会社はDVDが脅威にさらされることに対して反乱を起こすだろうし、あまりに高く設定しすぎると、人々は、レンタルか、もしくは映画の違法ダウンロードを続けることになるだろう。

ページトップへ