ロシアの外交政策/空っぽの超大国

The Economist の記事を訳出しました。
Russian foreign policy: A hollow superpower
原文はこちらから読めます。


ロシアの外交政策
空っぽの超大国
シリアにだまされるな。ウラジーミル・プーチンの外交政策は弱さから生み出され、テレビのために用意されている

2016年3月19日

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歓声にわく群衆がロシア国旗を振る。伝統的な衣装を纏った女性たちが、帰還したパイロットに焼きたてのパンを与える。テレビに映し出された映像から判断すると、ウラジーミル・プーチンは、今週、シリアで素晴らしい勝利を収めたということになる。軍事行動は完遂された、という思いがけない宣言の後、プーチン氏は、停戦と和平交渉の開始に対して賞賛を求めている。彼は自分の軍隊を誇示し、民間人の命を顧みず、彼の盟友、バッシャール・アル=アサドを助けた(アサド氏自身は不要だったとはっきり言うかもしれないが)。彼は、欧州連合(EU)の敵対する国々にシリア人を追い散らし、難民を「武装化」させた。そして彼は、一貫してシリア内戦の深刻さと、それが中東とヨーロッパに存在するアメリカの同盟国にもたらす脅威を把握できないでいたバラク・オバマを出し抜いた。

しかし、良く見てみると、ロシアの勝利は虚しく聞こえる。イスラム国(IS)は存続している。平和は不安定だ。楽観主義者でさえ、ジュネーブの外交が成功することを疑っている。最も重要なのは、プーチン氏は、プロパガンダの重要なツールを使い果たしたということだ。本紙のブリーフィングで解説しているように、ロシアの大統領は、心配する市民に向けて、困難な状況にある自分たちの国が、最初はウクライナで、最近ではアレッポ(訳注:シリア第2の都市)の上空で、再び偉大な大国になったと信じ込ませるために、興奮をかきたてる戦場の映像を作り上げた。西側諸国にとっての大きな問題は、彼が次の芝居をどこで上演するかだ。

ロシアを再び偉大な国にする

プーチン氏のロシアは、彼が見せかけているよりも脆い。その経済は衰退している。プーチン氏が初めて大統領になった2000年以降の原油価格の上昇は、彼に、自由に使える棚ぼた的な輸出収入、1兆1,000億ドルを提供した。しかし、原油価格はピークの4分の1に下落した。プーチン氏がウクライナを攻撃した後に課された制裁措置により、ロシアはさらに引き締められた。生活水準は、過去2年間、下降しており、依然としてそれは続いている。2014年1月時点での平均給与は850ドル/月だったが、1年後には450ドルになった。

プーチン氏は、経済が衰える前でも正当性を失いつつあった。2011年から2012年にかけての冬に、大勢のロシア人が、自分たちの国を公正な選挙のある近代国家にすることを要求してデモを行った。プーチン氏の返答は、クリミアを併合し、ソ連崩壊(彼が言うところの、20世紀で「最大の地政学的な大惨事」)後におけるロシアの偉大さの回復を誓うというものだった。彼の計画は、2010年に7,200億ドルを投入して兵器を刷新し、軍隊を近代化することであり、敵対する西側諸国に対してロシアの守りを固めるためにメディアを利用することであり、外国に介入することだった。

ウクライナとシリアでの軍事行動で、彼はロシアはアメリカと同等であり、ライバルであるように見せかけた。このことは一般のロシア人の間で受けが良いだけでなく、重大なメッセージを含んでもいる。プーチン氏は、弱い状態にあるロシアが、アメリカの普遍的な民主主義の言論によって政権を打倒しようとする欲求(と彼が考えるもの)に影響されるのを恐れている。彼は、ウクライナとシリアの両方で、アメリカが、後に続いた混乱を抑えることができなかったので、大胆にも政府の転覆をそそのかしたのだと考えている。彼は、そこでの革命が失敗するのを見られることを恐れてか、あるいは、ロシア自体がいつか国内の革命に打倒されるかもしれないことを恐れて、部分的に介入した。

これまでのところ、彼の計画はうまくいっている。一般的なロシア人は、クレムリン支持の放送メディアによって欺かれ、国家の誇りにとって慰めとなる材料を喜んで求めてきた。プーチン氏の支持率は、欧米のほとんどの指導者よりもはるかに高く、80%以上を維持している。しかし、冒険主義の麻薬の効き目はすぐに薄れる。昨年の10月以来、国が正しい方向に向かっていると感じている有権者の割合は61%から51%に減少した。ロシア人はウクライナにうんざりしている。シリアはいまがピークだ。遅かれ早かれ、メディアは軍事行動を切望するだろう。ウクライナ人は再びすくみ上がっている。

このことは西側諸国にとって何を意味するだろう。これまでアメリカは、少なくとも、プーチン氏の目的を誤解してきた。秋には、オバマ氏は、シリアはロシアにとって「泥沼」化するだろうと予測した。最近、彼は、『アトランティック』誌の取材に対して、ロシアの度重なる武力行使は弱さの表れであると語った。それは当たっているが、それは(オバマ氏が示唆するように)、プーチン氏が、外交政策の目標を説得によって達成できていないからではない。彼にとって、軍事行動は、それ自体が目的なのだ。彼はニュースの放送枠を埋めるために戦闘機の映像を必要としている。クレムリンは、国家建設を目論んでいる訳ではないので、シリアに泥沼化はあり得ない。

オバマ氏は、ロシアをその必然的な衰退に委ねておけば良いと考えている。彼は、プーチン氏はわんぱくな子供のようなもので、アメリカの思いやりによって報われていると考えている。しかし、シリアの事例は、オバマ氏が、地域の指導者たちがアメリカの力にただ乗りするのをやめて集団的利益のために協力するのを期待して距離を置いている隙に、いかにして権力の空白地帯が、イランやISのような撹乱者と、次のプロパガンダのネタを求めているロシアによって埋められたかを示している。

それゆえ、西側諸国は備えておく必要がある。アメリカがヨーロッパで軍事力を強めていることは歓迎できる。ヨーロッパのNATO加盟国は、(どのような決意表明も不必要にロシアを挑発するものとして捉えるイタリアなどの国は心境の変化を必要とするが)バルト三国に軍隊を置くことによって、同様の気概を示すべきだ。問題が生じた場合、NATOとEUはすぐに対応し、ロシアがNATOの土台となる集団安全保障を突き崩すことができないことを示す必要がある。

キエフへの支援を続けよう

ロシアの注目の的であり、ほとんどロシアそのものと言って良い国、ウクライナが重要な試金石となるだろう。ウクライナが成功したヨーロッパの一国となれば、ロシア人が自由民主主義を実現できる可能性を示すことになる。反対に、ウクライナが国として失敗すれば、ロシアは独自の「正統派」の文化に属しており、自由民主主義がロシアに教えることは何もないというクレムリンの主張を強化することなる。

残念ながら、アメリカとEUは、キエフ(訳注:ウクライナ首都)に疲れきっている。彼らは、ウクライナを助けるためにあらゆる手を尽くす代わりに、ウクライナの政治家たちが、自分自身を改革できると証明するのを期待している。それは間違っている。彼らは財政援助と技術的なアドバイスを提供する必要がある。彼らは腐敗の根絶に力を貸すべきだ。そして、彼らは忍耐強くあらねばならない。

最終的には、ロシアの深刻な衰退が、その攻撃性を制限するだろう。しかし、当分の間は、核武装したプーチン氏が、旧ソ連の影響範囲に自分自身を売り込もうとやっきになっている。オバマ氏の大統領任期最後の年に、シリアの成功から間もないプーチン氏は、西側諸国にもう一度、試練を与えることになるかも知れない。

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