『GTA V』とイギリスのゲーム産業

The Economist の記事を訳出しました。
Video games: Pixel pressures
原文はこちらから読めます。

『グランド・セフト・オート V』の発売直後に掲載された、イギリスのゲーム産業に関する記事です。『GTA V』がアメリカのイギリス流のパロディであるという指摘が出てきます。この記事を読んで『GTA V』の購入を決めました。あまり遊べていないのですが。。最後は、携帯カジュアルゲーム市場への期待で締められています。


ビデオゲーム
ピクセルの重圧

大ヒット作のリリースが、イギリスのゲーム制作会社を延命させるかもしれない

2013年9月21日

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 9月17日にリリースされたビデオゲーム『グランド・セフト・オート V』は、一見した限りでは、まったくスコットランドらしくない。その舞台は架空のロサンゼルスだし、主人公である(アンチ)ヒーローは、アメリカのギャング3人組だ。しかし、しばらく遊ぶとイギリス独特のユーモアに気づくことになるだろう。ゲーム中の「ウィーゼル・ニュース」ネットワークは、文化闘争の最前線から終末的な報告を届ける。架空のソーシャル・メディア「ライフインベイダー」は、カリフォルニアの技術者をからかう。カジュアルな暴力表現はさておき、ゲームの美点は、それがアメリカの、特にイギリス流のパロディになっている点にある。

 1億7000万ポンド(289億円)の予算がかけられたといわれるこのエジンバラで作られたゲームは、イギリスのビデオゲーム産業にとってのひとつの偉業だ。『GTA V』を開発した会社、ロックスター・ノース(Rockstar North)は、10億ポンド(1700億円)程の売り上げを達成することが期待されている。しかし悲しいことに、このような成功は、今日では稀だ。誇大広告の下、イギリスのビデオゲーム産業に、かつての威光はない。『GTA V』リリースの数日前、イギリス最古かつ最大のゲーム制作スタジオのひとつ、ブリッツ(Blitz)は、閉鎖することを発表した。ブリッツのトップ、フィリップ·オリバー氏は、契約のための熾烈な競争を原因の一端とした。

 ゲーム産業におけるイギリスの弱体化は、グローバルなゲーム産業の状況を大きく反映している。 2大ゲーム機、Xbox 360とプレイステーション3は、両方ともそのライフサイクルの終焉を迎えようとしている。イギリスのゲームの売り上げ(アナログ・デジタルの両方を含む)は、2010年の20億ポンド(3400億円)から、2012年は16億ポンド(2720億円)に下落した。世界中で同様の傾向が見られる。ゲーム業界団体、TIGAが収集したデータによれば、そのことは、イギリスのスタジオで雇用されている制作スタッフが、2008年の9,900人から、2012年の9,224人に減少している理由の一端を説明する。

 しかし、学校での質の高いコンピュータ・サイエンスの教育によって確立した、初期の優位性は失われている。資金調達の難しさは、例えばロックスター・ノースがアメリカ企業、テイクツー·インタラクティブ(Take-Two Interactive)に所有されているように、多くのスタジオが国外の制作会社に吸収されることを意味した。アメリカとカナダでは、州によっては、寛大な補助金を導入しており、企業は所得税さえも返還請求することができる。ゲーム開発者は、若く、流動的な傾向があるので、イギリスからスタッフが引き離されることになった。彼らを野心のある外国人と交換することは難しい。就労ビザは高価で、取得するのがますます困難になってきている。

 TIGAのCEO、リチャード·ウィルソンによれば、時代の潮流がいま変わろうとしている。2012年、スタジオでの雇用の減少は横ばいだった。新しいゲーム機がまもなくリリースされるが、そのことは雇用の拡大を意味すると考えてよいだろう。2012年の予算において財務大臣ジョージ·オズボーンによって発表された補助金は、その必要性を受け入れていない欧州委員会により、遅らされている。しかし最終的には、補助金は可決されると思われる。制作費の25%に相当すると見込まれるその金額は、海外からの資金流入に歯止めをかけることになるだろう。

 『GTA』のような大ヒット作は別にして、おそらく最大の希望は、小規模で柔軟なチームによって作られた、携帯電話や、タブレット、PC向けの、安価なカジュアルゲームにある。TIGAによれば、イギリスの開発会社の半分は、過去4年間に創業された。ニューヨークに拠点を置く開発会社、レボリューション・ソフトウェア(Revolution Software)の創設者、チャールズ・セシルは、彼の『ブロークン・ソード』シリーズの新しいバージョンをiPadユーザに販売できるようにしたアップルに感謝している。彼が指摘するように、イギリスのゲームが持つ皮肉なウィットには、未だ多くの需要がある。今こそ、それを生かす時だ。

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