日本の電力

The Economist の記事を訳出しました。
Electricity in Japan: Power struggle
原文はこちらから読めます。


日本の電力
電力/権力闘争

福島 –チェルノブイリ以降、世界最悪の原子力災害– が、日本のエネルギーの未来に影を落とす

2013年9月21日

 今週、日本で稼働する最後の原子炉が停止された。本州西岸に位置する大飯では、閉鎖は定期的なメンテナンスと安全確認のためのものだった。しかし、福島第一原発での3つのメルトダウンをきっかけに閉鎖された、大飯原発をはじめとする日本の50基の原子炉の再稼働予定日は、はっきりとは決まっていない。2011年3月の地震と津波が日本全土をひっくり返す前は、日本は、その電力の30%(世界でもっとも高い割合のひとつ)を原子力に依存していた。今では、1970年以降2度目の、完全に原子力なしの状態となっている。

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 昨年12月以来、官邸では、自民党が、閉鎖された原発の経済的コストについて発表している。経済産業省は、2013年末までに、非原子力の発電所を稼働させるために、余分な石油、ガス、石炭を輸入する必要があり、9兆2,000億円、余分に費用がかかることになると言う。急激な円安や原油高も向かい風となり、日本は現在、30年ぶりに貿易赤字となっている。日本の企業や消費者は、多くの国に比べてはるかに高い電力コストに直面している。

 「原子力村」として日本で知られている、電力会社、官僚、学者、重工業のなれ合いのコミュニティが、原子炉を再稼働するように自民党をせき立てている。安倍晋三首相は、喜んで期待に応えようとするだろう。今年の初め、彼の政府は反原発のエネルギー政策委員会を追放した。福島の災害をきっかけに行われるようになった、原子力発電に反対する東京の街頭デモは減少していった。道は、原子炉を再稼働するために開かれているように見えた。

 しかし、物事はそう簡単には運ばない。新しい、強化された原子力機関、原子力規制委員会は、原発を再稼働する前に、それが安全であると宣言しなくてはならないが、原発のいくつかは、活断層(世界の大地震の5分の1は日本で起きている)の上、または近くに位置している。また、法令により、近隣にある原発について町や村は意見を述べる機会が与えられているが、それによれば、ほとんどの日本人が恒久的な脱原発を望んでいる。挙げ句の果てに、被災地、福島での原発の混乱についてのニュースには改善の兆しが見られない。最近では、何百トンもの放射性の水が、太平洋に毎日流出していたことが発覚した。

 だからこそ、安倍氏は慎重にことを進める必要がある。もしも原子力規制委員会が、日本でもっとも古く、もっともリスクの高い原発を再稼働しないと決めた場合、自民党はそれについて手出しできない。原子力規制委員会は、人員不足の上、政治的圧力の下にあるが、迅速に新たな安全規則を公布することを含め、活断層の上にある原子炉について基準を作っている。

 また、首相は、簡単に大衆の反対を押さえ込むこともできないだろう。原子力発電所を抱えている地方の町は問題ではない。過去には、気前良く売り払ってもらえそうな、孤立し、経済的に恵まれない地域に発電所を設置するために、政府と電力会社は共謀していた。これらの町のいくつかは、原子炉を再稼働するように強く求めている。しかし、少し離れた場所では、反対意見が強くなる。本州北西岸に位置する新潟県の知事、泉田裕彦氏は、県民の約70%が、世界最大の原子力発電所、柏崎刈羽で原子炉を再稼働することに反対しているという。泉田氏は、 原子力規制委員会がゴーサインを出してしまえば、知事には再稼働を止める力がないと言う。しかし、影響力があり人気もある地方の政治家には、政府や電力会社の空威張りは通用しないだろう。

 また、自民党は、2011年3月以前と比較して、原子力発電に批判的な多くの政治家を内包しており、経済大臣、甘利明氏のような原子力推進派の影響力に対抗している。彼らは、原子炉を再稼働すると、2016年に予定されている次の総選挙にマイナスになる可能性があると考えている。自民党の反原子力の連立パートナー、公明党もまた、いくらか政府を抑制している。一方、ビジネスが上向いていくという楽観主義が、景気回復は原子力発電に依存しているという問題の影を薄くしているように見える。原子炉が再稼働されるとしても、おそらく12〜15基がせいぜいだろうと、政府のエネルギー諮問委員会のメンバーでもある再生可能エネルギー専門家、植田和弘氏は言う。かつて日本の電力の少なくとも半分を供給することを期待していた原子力村にとって、それは大きな失望だろう。

 その代わり、日本は、長期的な代替エネルギー供給のために準備を進めている。2011年以降、再生可能エネルギーのために新たに設けられた全量固定価格買取制度のおかげもあり、太陽光発電のような再生可能エネルギーを開発する独立系発電事業者の数は、3倍に増えた。水力発電を含む再生可能エネルギーは、いまや日本のエネルギーミックスの10%に及び、いつの日か、原子力発電がかつて誇ったシェアに置き換わるかもしれないという希望に導いている。

 しかし、疑念は残る。電力網は、依然として大きな電力会社によって所有されており、彼らは、それをシェアしないための言い訳をいくらでも見つけてくる。それに、狭くて山の多い国で、必要なすべてのソーラーパネルや風力タービンをどこに設置しろと言うのか。東京大学のポール・スカリス氏は、風力発電に使われる土地、1平方メートルは、たった2ワットの電力しか生成しないと言う。太陽光発電の場合は、同等の面積で、20ワットが生成される。原子力発電は、1平方メートルで、約1,000ワット生成する。

 したがって、これからの長い年月を、日本は、原子力の不足の大部分を補うために、石油、ガス、石炭でしのぐことになる。5月に、政府は、安価なシェールガスを輸入するための認可をアメリカから勝ち取った。それは、エネルギー輸入のコストを手軽に削減し、エネルギー安全保障についての懸念を軽減することができる。

 福島の混乱の後、広範な地域に及ぶ停電が予測されなかったのは、ひとつには、化石燃料の発電所が出力を上げたことによる。2011年3月以前には、発電所の多くが最大出力以下で順調に稼働していた。しかし、もうひとつの理由は、省エネルギーの余地があったことだ。日本の自然エネルギー財団によると、東京だけでも、2011年以降、電力消費を10分の1削減した。こういった背景の下、省電力機器の需要が急増してきている。発光ダイオード(LED)が日本で販売されたすべての電球の売上に占める割合は、2009年の3%から、今日では、30%を超え、急上昇している。フィリップス エレクトロニクス ジャパン代表取締役、ダニー・リスバーグ氏は、2015年までに、白熱灯や蛍光灯の割合は以前のほぼ3分の1になるだろうと言う。

 電力市場の自由化という積年の懸案は、エネルギー源の多様化と電気代の引き下げに大きく寄与するだろう。政府の計画(それは、福島での失態の取り繕いにより、最大の公益事業体、東京電力の地位が低くなったことで、通しやすくなった)は、発電と送電を分離し、住宅電力市場を新たな競争に開くことだ。改革が成功し、新しい非原子力プロバイダが顧客を獲得した時、日本のエネルギーミックスにおける原子力発電のシェアが下がることになるだろうと、東京にある富士通総研の高橋洋氏は言う。そのことは、ようやく、日本国民に、日本のエネルギーの選択について、いくらかの発言権をもたらすことになるだろう。

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