英国はどちらのボリスを得るだろうか?

The Economist の記事を訳出しました。
The Conservative leadership: Which Boris would Britain get?
原文はこちらから読めます。


保守的なリーダーシップ
英国はどちらのボリスを得るだろうか?

英国の次期首相候補は、大衆に迎合することを抗えない。不吉な今日の醜い政治

3年前の今週末に解き放たれたブレグジットという名のモンスターは、すでに2人のイギリス首相を飲み込んでいる。2016年6月24日に国民投票の結果が発表された数時間後、デイヴィッド・キャメロンは降伏した。テリーザ・メイは自信を持って始めたが、すぐに自分自身が追い詰められていることに気がついた。保守党議員は、彼女に代わって党首に、そして首相になる候補者リストを作成した。党員は7月末までに決定を下す。議員と活動家の間で圧倒的に有力なのはボリス・ジョンソンだ。

しかしそれは、いったいどちらのボリス・ジョンソンだろうか? ヨーロッパの諸都市を愉悦と侮蔑の混ざりあった目で眺める元外務長官は、時々によって異なる態度を装ってきた。2008年から16年にかけてのリベラルで国際的なロンドンの市長として、彼は移民と単一市場の美徳を説いた。彼は易々と鞍替えし、EU離脱キャンペーンの重要人物として、移住を批判し、以前は支持していたにもかかわらず、トルコがEUに加盟することの危険性について警鐘を鳴らした。そして現在、彼は右派の保守党党員の票を得ようとして、合意なしでEUを離脱する見通しについて明言する—それが障害になれば「ビジネスなんか知ったことか」と答える—そして、ブルカをまとった女性は「まるで郵便ポストみたいだ」と冗談を言う。

気が滅入ることに、このイカサマはうまくいっている。より穏健な候補者による決然としたキャンペーンにもかかわらず、ジョンソン氏は党員の投票で勝利すると目される人物だ。さらにわからないのが、職務において彼がどのように振る舞うかということだ。欧州離脱物語が長びくにつれて、イギリスはますます分極化してきている。大きく分断された国で、ジョンソン氏はどの観客の期待に応えようとするだろうか?

次期首相が選別されている方法は、候補となっているのがどのような人物なのかを推測しやすくしてくれない。党首は、総選挙に直面するのではなく、何よりもブレグジットを望む16万人の熱心な保守党の活動家によって選ばれる。今週の世論調査では、経済に「重大な損害」を与えたとしても、スコットランドと北アイルランドとの連合を解体したとしても、保守党自体を「破壊し」ても、大多数がEUを離脱したがっていることが判明した。候補者は詳細なマニフェストを作成していない。特にジョンソン氏は珍しいほどに恥ずかしがり屋であり、他の候補者と討論したり、ジャーナリストに質問される可能性をほとんど避けてきた。

指導哲学の欠如は彼の弱点というべきだ。しかし、このような騒がしい時代には、それが彼の成功の要となっている。彼は政治的な信念をほとんど持っていないので、人々は自分の信念の収納場所として彼を使うことができる。ハードコアの離脱派は、10月31日までにEUがより良い条件を提示することを拒否した場合、彼が合意なしで離脱するという考えに飛びついた。残留派は、彼が本当は心はリベラルであり、本当に危険なことは何もしないだろうと—さらには彼一流のサービス精神によりあえて期待を裏切って第2の国民投票さえ求めるかもしれないと—自分に言い聞かせる。彼の言葉がほとんど何も意味しないということは、彼が、過去に約束したことと無関関係に、結局自分たちが望むことを実行してくれるのではないかという合図として両サイドに受け取られる。

これは愚かであり、ドナルド・トランプを大統領に支持した連立を彷彿とさせる。トランプ氏の常軌を逸した約束(メキシコ国境の壁や、カナダとの貿易戦争)をある者は信じたが、それ以外は文字通り受け取るべきではない言動の一部と考えていた—そして、ぞっとするようなショックを受け続けることになった。2人の金髪爆弾の類似点はこれだけではない。ナルシシズム、怠惰、他人を利用する意欲と同様に、彼らは黒が白であり、その逆であると主張する才能を共有している。英国はまだ、さまざまな党の支持者たちが基本的事実について合意することすらできないアメリカの沈滞に苦しんでいない。しかし、奔放に自己矛盾しつつ大きな冗談に人を巻き込むジョンソン氏が率いる政府は、英国に同じ道をたどらせるだろう。

ジョンソン氏にとっての最善のケースは、ブレグジットの合意を3度拒否した議会に対して、彼がセールスマンとしてのスキルや、セールストーク、またはそれに似た方法を使うかもしれないことだ。メイ氏は最後の挑戦で58票減らした。それ以来、労働、保守の両党ともに、自民党とブレグジット党それぞれに群がっている彼らの支持者たちにブレグジットが与える影響を恐れている。選挙に当選したばかりで、自分の党内で人気があり、木でできているかのように生気がないメイ氏に対して磁石でできているかのように人を引きつけるジョンソン氏は、議員を十分に説得して彼らの考えを変えることができるかもしれない。本紙が望んでいる、彼が議会の行き詰まりを打開するために合意について国民投票を選ぶということは、ありそうにない。さらに言えば、彼についての多くが、ありそうにない。

悲しいかな、ジョンソン氏にとってありそうなのは、不利に働くケースのほうだ。彼は道標ではなく風見鶏であり、現時点においては、英国の風は危険な方角に向かって吹いている。先月のヨーロッパの選挙で最初にあらわれ、いまや合意なき離脱を約束して世論調査をリードしているポピュリストであるブレグジット党の急上昇は、その反乱を収める唯一の方法がそれを真似ることだと信じている保守党を怖がらせている。国民投票のだいぶ前から、保守党は、その支持者たちが経済的価値観よりも文化的価値観によって結束している政党へとしだいに変化してきた。ブレグジットはその傾向を加速させた。次の保守党党首は、自由市場を推進する立場から(皮肉にも)ヨーロッパ型の右派ポピュリストへと党をシフトさせていくことを余儀なくされるだろう。ジョンソン氏はその転換を実現することができそうだ。

馬鹿げた逆さまのピラミッド

風見鶏たるジョンソン氏は、アイデアや指導、指示を求めて、ダウニング街10番地と内閣にいる自分の周囲の人々にかつてないほどに依存するだろう。アドバイスや専門家に憤っているトランプ氏とは対照的に、ジョンソン氏は、自身が栄光を勝ち得るならば、喜んで他人に任せて仕事をさせる。主流の共和党員の大部分は、当初トランプ氏を認めず、彼のために働くことを否定したが、穏健な保守党党員は、内閣で旨味のあるポジションにありつける期待から、ジョンソン氏の旗印に群がっている。彼らの多くは、合意なきブレグジットは英国にとっては悪いことであり、したがって、おそらく保守党にとっても災難となることを認識している。ジョンソン氏が最終的に権力の座に就けば、彼のくだらない本能の手綱を握る役目が彼らに降りかかるだろう。彼らが失敗すれば、そう遠からぬうちに、ブレグジットという名のモンスターが、3人目の首相を噛み飽きて吐き出すだろう。

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