トランプとマリオ・ドラギ ユーロ圏の金融政策を巡って

The Economist の記事を訳出しました。
The next economic battleground: Donald Trump takes aim at Mario Draghi over interest rates
原文はこちらから読めます。


次の経済的な戦場
ドナルド・トランプは金利についてマリオ・ドラギに狙いを定める

アメリカの大統領はユーロ圏の金融政策が不公平であると訴える

マリオ・ドラギは、6月18日にポルトガルで開催された欧州中央銀行(ECB)の年次総会で講演を行うために立ち上がったとき、確かに反応を期待していた。しかし、おそらくそれは、世界で最も力を持つ男からのものではなかった。ドラギ氏は、ユーロ圏の経済が改善されなかった場合、ECBは金融緩和をする用意があると発表した。彼が席に戻った数時間後、ドナルド・トランプ大統領はツイッターで「彼らが米国と競争することを不当に容易にする」と彼を非難した。ヨーロッパの国々は「中国や他の国々と共に、何年にもわたってこれをやりおおせてきた」と彼は主張する。

この激怒は、トランプ氏が、彼が好んで振り回す貿易関税だけではなく、金利と為替レートを、経済戦争の武器とみなしていることを改めて示す。

ECBが金融緩和を実行するにあたって「かなりの余裕」があると宣言することによって、ドラギ氏は懐疑的な投資家に中央銀行がユーロ圏の低迷する経済を後押しすることができると納得させようとしていた。彼はしばらくの間は成功したようだ。投資家は今後数ヶ月の間にさらなる刺激策が講じられることを期待しているので、彼のコメントによってユーロはドルに対して0.5%下落した。(それはその日の残りの下落の大部分を占めていたのではあるが。)

市場の反応がトランプ氏を襲った。珍しいことに、彼は攻撃対象として「マリオD」を選び出した。しかし彼は以前、ユーロが弱いことについて不平を言っていた。昨年7月、彼は金利と為替レートを操作したことについてEUと中国の双方を非難した。中央銀行が自国の競争力を高めるために切り下げを行っているという非難は目新しいものではなく、これまではアメリカに対してぶつけられてきた。2010年にFRBが量的緩和プログラムを拡大したとき、多くの国が通貨を切り下げようと介入し、当時のブラジルの財務大臣であるGuido Mantegaに「通貨戦争」という用語を生み出させた。

トランプ氏のユーロ安、ひいてはドル高に対する批判は、戦略的なタイミングで行われたのかもしれない。次の2日間で連邦準備制度理事会は、金融政策について会談し、トランプ氏は金利の引き下げを何度も求めた。しかし、FRBは金利設定において独立しているため、ECBの決定はもちろんのこと、彼がその決定に直接影響を与えることはできない。ドラギ氏は通貨戦争を始めるかどうか尋ねられて、彼の唯一の目的は銀行のインフレ目標を達成することであると答えた。彼は「為替レートは目標にしていない」と言った。聴衆は拍手喝采を送った。

しかし、トランプ氏は、ヨーロッパとの貿易について新たな敵対的行為を始めることを決定できる。11月までに、自動車に対するアメリカの輸入関税が増額されるかどうかが決定されると見られている。トランプ氏がアメリカがECBに不当に扱われてきたと考えているのならば、そのことは彼によりそれを実行させたがらせるだろう。しかし、ECBの金融緩和はゼロサムゲームではない。より緩和された政策はより弱い為替レートによって部分的に機能するが、ユーロ圏の経済活性化の効果はアメリカのオートバイとバーボンへのより強い購買欲求をも生み出すはずだ。

トランプ氏がヨーロッパからの輸入品に関税をかける理由として為替レートを持ち出すのであれば、それは自滅を意味する可能性がある。ユーロ圏の経済はさらに打撃を受け、ドラギ氏はさらに刺激策を講じることを強いられ、ユーロを下落させるだろう。確かにECBは、アメリカの保護主義に対して企業が抱いている恐怖と世界貿易の減速が、すでにユーロ圏に悪影響を及ぼしていると考えている。皮肉なことに、トランプ氏こそが、そもそもドラギ氏が今日立ち上がった理由の一部だったのかもしれない。

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